昨今、YouTube上に他人を撮影した動画が投稿されることは少なくなく、その際、多くの場合には撮影した本人の許可を得て投稿するか、モザイク処理などをして投稿しているかと思います。仮に他人の顔などが映った動画を本人に無断で投稿した場合には肖像権の侵害として法的な問題になるのでしょうか。

事案の概要

本件は、原告が警察官に逮捕された状況を撮影した動画(本件逮捕動画)を被告が原告に無断でYouTube上に投稿したため、原告が被告に対し、肖像権等の侵害であるとして60万円の慰謝料を求めた事案です。

本判決(東京地方裁判所令和4年10月28日判決)

判断基準

肖像等を無断で撮影・公表等する行為は、

①撮影等された者(被撮影者)の私的領域において撮影又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公共の利害に関する事項ではないとき

②公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が社会通念上受任すべき限度を超えて被撮影者を侮辱するものであるとき

③公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公表されることによって社会通念上受任すべき限度を超えて平穏に日常生活を送る被撮影者の利益を害するおそれがあるときなど

被撮影者の被る精神的苦痛が社会通念上受任すべき限度を超える場合に限り、肖像権を侵害するものとして、不法行為上違法となる

本件の事情

本件逮捕動画の内容は、白昼路上において原告の容ぼう等が撮影されたものであるから、公的領域において撮影したものと認められる。

そして、本件逮捕動画の内容は、道路脇の草むらにおいて原告が仰向けの状態で警察官に制圧され、白昼路上において警察官が原告を逮捕しようとするなどして原告と警察官が押し問答となり、原告が警察官により片手に手錠を掛けられ、原告が複数の警察官に取り囲まれるなどという現行逮捕の状況等を撮影したものである。

そうすると、本件逮捕動画の内容が社会通念上受任すべき限度を超えて原告を侮辱するものであることは明らかである。

→以上のように、本件逮捕動画を原告に無断でYouTube上に投稿する行為は、原告の肖像権を侵害するものとして、30万円の慰謝料が認められました。

著作権侵害の点

なお、肖像権の問題とは別に、本件の原告がYouTube上に本件逮捕動画に関連した複数の動画を投稿した点につき、著作権及び著作者人格の侵害についても争われました。

しかし、原告が本件逮捕動画内の原告自身の容ぼうにモザイク処理を施していたり、音声加工をしていたり、原告作成の動画の冒頭で本件逮捕動画を被告作成のものであると表示していたことなどの事情から著作権及び著作者人格権の侵害とは認められませんでした。

まとめ

本判決は、撮影が私的領域で行われたものか、公的領域で行われたかを分けたうえで、判断基準のうち②に該当するものとして違法とされました。

公的領域での撮影の場合には、被撮影者を侮辱するものか、被撮影者の日常生活に支障を与える場合に限って違法となると判断が示されたため、そもそも肖像権侵害として違法となる場合が限定的であるばかりか、本件は違法とされたものの慰謝料として30万円しか認められていません。

被撮影者が被った被害からすれば不十分な結論のように思われます。

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