COLUMN / 解決事例 2026.04.09
ミラー同士の軽微な接触でも
腰椎捻挫の傷害が認められた裁判例
— 自保ジャーナル No.2203(2026年4月9日号)に掲載されました —

自保ジャーナル No.2203
| 発行号 | No.2203(2026年4月9日発行) |
| 判決日 | 横浜地裁 令和7年8月22日判決 |
| 事件番号 | 令和6年(ワ)第1381号ほか |
| 争点 | 受傷の有無/整骨院施術費/休業損害 |
| 掲載頁 | P.81 〜 P.83 |
交通事故の被害にあわれた方からのご相談で、保険会社から「この程度の接触では怪我はしないはずだ」と治療費の支払いを拒まれる、あるいは「もともとの持病が原因ではないか」と受傷そのものを否定される——そんなお声をよく伺います。今回ご紹介する裁判例は、まさにそうした争いの中で、裁判所が被害者の受傷を正面から認めた一件です。当事務所が担当した事案が、交通事故裁判例の専門誌「自保ジャーナル」No.2203 に掲載されましたので、概要をご紹介いたします。
どのような事故だったか
■ 事案
個人で配送業に従事していた男性(当時58歳)が、神奈川県横浜市内の路上で貨物車を停止させていたところ、対向車線から来た普通乗用車とドアミラー同士が接触しました。
ミラーがぶつかった瞬間、とっさに体を傾けて衝撃を避けようとしたことで、男性は上半身を大きく捻る姿勢になり、その後、腰椎捻挫・頸椎捻挫・胸背部挫傷・外傷後坐骨神経痛の診断を受け、約2か月間通院することになりました。
相手方保険会社側は、「車体ではなくミラー同士の接触であって、強い衝撃が車内に伝わったとは考えにくい」「原告の腰にはもともと変性(加齢による傷み)があり、今回の事故とは関係のない症状ではないか」といった主張を行い、受傷そのものを争いました。
争点① ミラー同士の接触で「怪我」が認められるか
ミラー同士の接触というと、いかにも軽微な事故に見えます。実際、本件でも裁判所は「それ自体で強い衝撃が車内に加わったとみることはできない」と、衝撃の大きさそのものは大きく評価しませんでした。
しかし裁判所は、そこで判断を止めませんでした。事故の瞬間、被害者が反射的にとった「回避行動」そのものが受傷の原因になり得るという視点から、以下のように判示しました。
原告の腰椎がもともと脆弱であったことに照らせば、上記の回避行動によって症状が出現することは不自然でない上、B整形外科の医師も腰椎椎間板の変性に、交通事故というエネルギーが加わって椎間関節支配の脊椎神経を刺激したと考えている旨指摘している。
判決文より
つまり、「ぶつかった衝撃の強さ」ではなく、「ぶつかりそうになって反射的に体を捻ったこと」そのものが、怪我の原因になり得ると認めたわけです。これは、ミラー接触・低速度事故など「軽微な事故」と扱われがちな事案にとって、重要な判断といえます。
争点② もともとの「腰の傷み」があったことは不利にならないか
保険会社側は、画像上、原告の腰椎にもともと変性があったことを挙げて「事故とは関係のない症状だ」と主張しました。被害者の方が中高年の場合、ほとんど必ずといってよいほど問題になる論点です。
■ 本判決のポイント
「脆弱だった」ことは、むしろ受傷を認める方向に働く
裁判所は、腰椎に既往の変性があったことを、事故と症状のつながりを否定する材料としてではなく、「もともと脆弱だったからこそ、わずかな回避行動でも症状が出やすかった」という文脈で位置づけました。事故前には腰や背部の症状が全くなかったこと、事故後2〜3時間で症状が出たという説明が一貫していたことも、受傷認定を後押ししています。
一方で、頸部(首)の症状については、事故から3週間以上経って初めて医療機関に申告したこと、当初の症状説明にも首の痛みが含まれていなかったことなどから、頸椎捻挫については事故との因果関係が否定されました。症状を早期に、一貫して医師に伝えることがいかに重要かが、あらためて浮き彫りになった判断です。
争点③ 整骨院の施術費はどこまで認められるか
交通事故の治療では、病院と並行して整骨院に通院されるケースが多く、この費用をめぐって争いになることも少なくありません。本件でも、原告は2か月間に計22回整骨院に通院しましたが、相手方はその必要性を争いました。
裁判所は、施術の部位・頻度・効果、医師の関与の有無などを総合的に検討し、整骨院施術費のうち4割(5万2,952円)を事故と相当因果関係のある損害として認定しました。全額ではないものの、施術録に効果の記録が乏しかった中で、一定割合が認められた意味は小さくありません。
CONCLUSION
この裁判例から読み取れること
「ミラー同士の軽い接触だから怪我はしないはず」「もともと持病があったのだから事故のせいではない」——こうした主張は、交通事故実務で日常的に繰り返されるものです。しかし本判決は、事故態様の軽重だけで受傷を否定することはできないこと、そして既往症の存在は、必ずしも被害者に不利な事情ではないことを、具体的な事実関係に即して示しました。
軽微な事故として片付けられそうな場面でも、受傷のメカニズム、症状出現の時期、医療機関への申告内容を丁寧に積み上げていけば、きちんと受傷を認めてもらえる——そのことを改めて示した一件として、参考になる裁判例と考えています。
※ 本記事は、自保ジャーナルNo.2203(2026年4月9日発行)P.81〜P.83に掲載された横浜地裁令和7年8月22日判決をもとに、当事務所で解説を加えたものです。
※ 事案の個別事情により結論は異なります。類似の交通事故被害でお困りの方は、お気軽にご相談ください。
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