本件は、特別養護老人ホームに入居していた高齢者が、食事中に意識を失って死亡した事故に関するものです。遺族は、施設側に適切な見守りや配慮を欠いていたとして、数千万円規模の損害賠償を求めて提訴しました。
施設に課される「安全配慮義務」
裁判所はまず、老人ホームには入所契約に基づいて、入居者の生命や身体を危険から守るよう十分に配慮する義務(いわゆる「安全配慮義務」)があるとしました。
本件では、施設職員が、亡くなった入居者について「食事をかき込む癖がある」「むせ込みや嘔吐を繰り返していた」ことを把握していたと認定。そのような状況下では、嘔吐物の誤嚥による窒息の危険性を予見することが可能であったと判断しました。
そのため、施設側には入居者が食事をする際に職員が常に見守る義務があったにもかかわらず、実際にはそれを怠っていたとして、注意義務違反が認定されました。
家族側にも過失があったと判断
もっとも、老人ホーム側は、事故前に入居者の食事を「全粥+刻み食」といった誤嚥しにくい形態に変更し、そのことを家族にも説明していたと主張しました。しかし、家族から「普通の食事に戻してほしい」との要望があり、施設はそれに応じて軟飯に近い形態へと戻した経緯がありました。
裁判所は、施設から誤嚥リスクの説明を受けながらも、あえて通常の食事への変更を希望した家族の行動が、誤嚥による死亡という結果に一定程度影響を与えたと判断。結果として、損害額の50%が家族側の過失として減額されました(過失相殺)。
まとめ
最終的には過失相殺により損害額が半分に減額されたものの、慰謝料や逸失利益を含めた賠償額は1,000万円を超える結果となりました。
「常時見守り」が注意義務として課されるのは過重との見方もありますが、誤嚥のリスクが高いことを施設側が把握していた点を重視すれば、注意義務違反が認定されたのもやむを得ないといえるでしょう。
本件は、高齢者介護の現場でどのような注意が求められるか、また家族の判断が法的責任にどう影響するかという点で、非常に示唆に富む裁判例といえます。
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