「始業時間より早く出社して働いているのに、残業代が支払われない」。
そんな「早出残業」の問題でお困りの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

本来、早出勤務も条件次第では「労働時間」として認められ、残業代の支払い対象になる可能性があります。しかし会社側が「自発的な行動だ」として取り合わないケースも少なくありません。

本コラムでは、早出残業が違法となる場合の考え方や、残業代を請求するための具体的な方法について、弁護士の視点から分かりやすく解説します。


早出出勤=残業代がもらえるとは限らない?

早出残業とは?

「早出残業」とは、始業時間前に会社に到着して業務に従事することで、結果的に所定労働時間や法定労働時間を超えて働くことを指します。

例えば、所定労働時間が9時〜18時の職場で、8時に出社して実務を開始した場合、定時で退勤しても9時間働いたことになり、1時間分は残業時間に該当する可能性があります。

残業代が出ないのは違法?

使用者の「指揮命令下」にあった時間は労働時間とみなされ、残業代の支払い対象になります。したがって、早出出勤であっても、労働時間に該当すれば残業代を請求できるのです。

なお、労働基準法では1日8時間・週40時間を超える勤務を「法定外労働」としており、これに該当する部分には割増賃金が発生します。
使用者が36協定(時間外労働に関する労使協定)を締結せずに、早出残業を常態化させている場合には、明確に違法と評価される可能性もあります。


残業代が請求できる「早出残業」の典型例

以下のような場合、早出勤務が会社の指揮命令下にあったと判断される可能性が高く、残業代の請求が認められやすくなります。

(1)上司からの指示があった場合

業務の都合上、上司から「明日は早く来て準備をしてほしい」などの指示があれば、その時間は労働時間として認められます。

(2)早出しないと「遅刻扱い」になる職場

実質的に早出が強制されているような職場、つまり8時45分に出社しないと始業は9時でも「遅刻」と言われる場合、会社の黙示の指揮命令があると判断される可能性があります。

(3)早出していることを上司が黙認している場合

明示的な指示がなくても、上司が日常的に早出勤務の存在を知りながら、何ら対応しない場合は「黙示の指示」があったと認定され得ます。


請求が認められない「自発的な早出」のケース

一方、次のような状況では、早出時間が労働時間と認められず、残業代が請求できない可能性があります。

(1)会社に必要ないと言われたのに自発的に出勤

会社から「早出は不要」と明言されているにもかかわらず、本人の判断で早く出勤して業務を始めているようなケースでは、労働時間とみなされない可能性が高いです。

(2)単に遅刻を避けるための早出

満員電車を避けたい、遅刻が不安だからといった理由での早出は、会社の指揮命令とは無関係であり、労働時間に該当しません。


早出残業の「証拠」が大切

早出残業が労働時間として認められるためには、何よりも証拠が重要です。

(1)証拠になるものの例

  • タイムカードや勤怠管理システムの記録
  • パソコンのログイン履歴
  • 早朝に送信された業務メール
  • 入退室記録
  • 業務日報や上司とのやり取りのメモ

(2)証拠が集められないときは?

証拠の収集に不安がある場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。必要な証拠や入手方法について具体的なアドバイスを受けられますし、場合によっては会社に対して開示を求めることも可能です。


5. 未払いの残業代を計算してみよう

証拠がそろったら、次は実際にいくら請求できるのかを計算します。

(1)基本的な計算式

残業代 = 1時間あたりの基礎賃金 × 割増率 × 残業時間
  • 時間外労働:25%以上
  • 深夜労働(22時~翌5時):25%以上
  • 休日労働:35%以上
  • 月60時間を超える時間外労働:50%以上

(2)「法定外」と「法定内」の違いに注意

  • 法定外残業:1日8時間・週40時間を超える勤務 → 割増賃金あり
  • 法定内残業:所定労働時間を超えているが、法定内に収まる勤務 → 割増賃金なし(ただし賃金は発生)


6. 未払い残業代の請求方法

(1)内容証明郵便で請求書を送付

まずは計算した残業代の請求書を作成し、配達証明付き内容証明郵便で会社に送ります。時効(3年)を中断させる意味でも重要です。

(2)会社との交渉

内容証明を送った後は、会社と交渉を行います。支払いに応じる場合は書面で合意書を作成しておくことが望ましいです。

(3)交渉が難しい場合は弁護士に依頼

会社側が交渉に応じない、または適切な対応をしない場合は、弁護士を通じて労働審判や裁判手続を行うことになります。


弁護士に相談するメリット

  • 会社との交渉を任せられる
  • 適切な証拠収集について具体的にアドバイスが受けられる
  • 自分のケースが違法な早出残業に該当するか判断してもらえる

弁護士に依頼することで、手続きを有利に進めることができ、精神的負担も軽減されます。


まとめ

早出勤務であっても、会社の指示があったり黙認されている場合は、立派な「残業」に該当します。
しかし、証拠がなかったり、単なる自発的行動とみなされてしまえば、残業代を受け取るのは難しくなります。

泣き寝入りせず、まずはご自身の勤務実態を見直し、証拠を集めるところから始めてみましょう。不安な場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

【監修】

米玉利大樹
米玉利大樹代表弁護士
年間数百件の法律相談を受け、年間100件以上の法律問題を解決しています。
「より良い解決」「迅速な解決」を大事にしており、個々の事案に適したスピーディな進行・解決を心がけています。
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