「知人に頼まれて口座を貸しただけ」「使っていない口座を譲っただけ」
――そんな軽い気持ちが、思わぬ法的責任を招くことがあります。

今回は、競馬投資を装った詐欺事件で、口座を提供した人が被害者から損害賠償を命じられた裁判例をご紹介します。


1. 事件の概要

昭和37年生まれの女性Xさんは、「競馬予想のプロが推奨する馬券を購入すれば、高配当が得られる」と勧誘されました。
勧誘したのは、ある運輸会社の従業員を名乗る人物たち。

彼らの指示どおり、Xさんは複数の名義人(Y1〜Y6)の銀行口座に合計1200万円以上を振り込みました。
しかし、投資話は架空のもので、振り込んだお金は戻ってきません。

Xさんは、「口座を提供したYらも詐欺に加担した」として、損害賠償を求めて訴訟を起こしました。


2. 裁判所の判断

裁判所は、
Yら自身が直接詐欺をしたわけではないため、**通常の不法行為責任(民法709条)**は否定しました。

しかし、口座を他人に使わせた行為が詐欺の実行を助けたとして、
共同不法行為(民法719条)による幇助責任を認めました。


3. 「口座貸し」は違法行為

判決はまず、犯罪収益移転防止法に言及しました。
この法律は、犯罪による収益が追跡・没収できなくなることを防ぐため、
銀行口座の譲渡や貸与を原則として禁止しています。

「自己名義の預貯金口座を他人に使用させることは原則として許されず、
通常の商取引や金融取引など正当な理由がある場合に限って例外的に認められるにすぎない」

つまり、他人に通帳やキャッシュカードを渡す行為は、
原則として違法であり、刑事罰(1年以下の懲役または100万円以下の罰金)の対象にもなります。


4. 「知らなかった」では済まされない

裁判所は、Yらが自分の口座を他人に渡した行為について次のように指摘しています。

「振り込め詐欺や闇金による口座悪用が社会問題化している中、
自分の口座を他人に渡すことが犯罪に使われかねないことは、社会常識として明らかである」

Yらには、
「この口座が不正に使われるかもしれない」ということを
十分に予測できたにもかかわらず、安易に提供した過失があると判断されました。

その結果、裁判所はY1〜Y6のうち数名について、
自分の口座に振り込まれた金額分の範囲で、
被害者に対する損害賠償責任を認めました。


5. この判決の意味

この裁判例は、
「自分はだまされた側」「使わせただけ」と主張しても、
安易な名義貸しが**詐欺の手助け(幇助)**と評価されることを示しています。

実際、「口座を貸しただけ」で

  • 被害者への損害賠償責任(民事責任)
  • 犯罪収益移転防止法違反による刑事責任

の双方を負うリスクがあります。


6. 弁護士からのアドバイス

銀行口座やキャッシュカード、スマートフォンの名義を他人に貸すことは、
犯罪に利用される可能性が極めて高く、
「貸しただけ」でも重大な責任を問われる行為です。

万が一、詐欺グループなどに巻き込まれてしまった場合は、
できるだけ早く弁護士に相談し、被害拡大を防ぐことが重要です。


まとめ

  • 自分名義の口座を他人に使わせることは原則禁止。
  • 名義貸しが詐欺に使われれば、共同不法行為責任を問われる可能性がある。
  • 「知らなかった」では免責されない。

安易な口座貸しは、詐欺を助ける行為になりかねません。
トラブルに巻き込まれた場合は、早めの相談をおすすめします。

【監修】

米玉利大樹
米玉利大樹代表弁護士
年間数百件の法律相談を受け、年間100件以上の法律問題を解決しています。
「より良い解決」「迅速な解決」を大事にしており、個々の事案に適したスピーディな進行・解決を心がけています。
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