本件は、サブリース契約の賃料減額に関する合意が、「将来的に自動的な賃料減額がある」と所有者が誤解していたことを理由に、合意が無効と判断された事案です。

当初、所有者は月額115万円でサブリース契約を締結していましたが、契約から10年後に賃料の見直し条項があることを根拠に、サブリース会社は「このままだと賃料は月額72万円に下がる」と説明。そこで、月額100万円に減額する案を提示し、所有者はこれに合意しました。

しかし実際には、将来的に賃料が自動的に72万円まで減額されることは契約上定められておらず、所有者はその点を誤解していたのです。

裁判所の判断:動機の錯誤による無効

裁判所は以下の点を重視して、「賃料減額の合意は錯誤により無効」と判断しました。

  • 所有者は、10年後に賃料が自動的に72万円に減額されると誤解していた。
  • この誤解は、サブリース会社の説明によって生じたものである。
  • 所有者が減額合意に応じた動機(=将来の自動的な減額を避けたいという意図)は、サブリース会社にも伝わっており、合意の前提になっていた。
  • このような誤解(動機の錯誤)は、契約の重要な要素に関わるものである(要素の錯誤)。

このように、動機の錯誤が「表示されていた」「契約の要素になっていた」と認められたことが、今回の判断のポイントです。

動機の錯誤が成立するための条件

動機の錯誤により契約が無効となるには、一般に以下の3つの条件が必要とされます。

  1. 動機の錯誤があること(=契約に至る判断の前提が間違っていた)
  2. その動機が相手方に示されており、合意の前提となっていること
  3. その錯誤が「要素の錯誤」として重要なものであること

さらに、当事者に重大な過失がないことも必要です。

本件では、サブリース会社と所有者の間に情報の非対称性(情報格差)があったことなどから、所有者に重大な過失はないと認定されました。

まとめ

サブリース契約において賃料の減額合意が無効とされるケースは多くありません。特に、「動機の錯誤」が認められるためには、その動機が相手に伝わり、契約内容に影響していたことが求められます。本件は、そうした要件を満たして無効が認められた、比較的珍しいケースといえるでしょう。

所有者にとって、相手方の説明をうのみにせず、契約条項の正確な内容を理解することが重要です。また、サブリース事業者に対しては、情報の開示義務や誤解を招かない説明がより強く求められるといえるでしょう。

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【監修】

米玉利大樹
米玉利大樹代表弁護士
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