交通事故の中でも「追突事故」は非常に多く見られる類型です。通常、停車中の車に追突した場合は、追突した側に100%の過失が認められます。

しかし、世の中には「何度も事故に遭っている」追突被害者も存在します。今回紹介する事案は、追突された側の運転者に“悪質性”があると判断され、その損害賠償請求が認められなかった非常に珍しい裁判例です。

事案の概要

本件は、一般車両を運転していたAが、後方から走行してきたタクシー運転手Bの車に追突された事故です。Aは、Bに対して車両修理費などの損害賠償を請求しました。

判決の内容(東京高裁令和4年3月23日)

裁判所は、事故の経緯やAの過去の行動から、本件事故はAが意図的に発生させた可能性が高いとして、請求を認めませんでした。判決では以下の点が重視されています。

① 故意による急停止と進路妨害

  • 片側2車線の道路で、Aは左側の第1車線から右側の第2車線へと強引に車線変更し、Bの前に割り込んだ。
  • その後、Bが再び第1車線に戻ろうとしたところ、Aは左にハンドルを切って進路を塞ぐように動き、急減速してほぼ停止した。
  • この一連の動きが不自然であり、事故を誘発する行動と判断された。

② 症状の経過が不自然

  • Aは事故後に視力の低下を訴えて眼科に通っていたが、症状の変化が不自然で、事故後にも裸眼で免許の更新を受けていた事実がある。

③ 過去にも複数の事故と保険金請求

  • Aは本件以前にも複数回の交通事故に遭っており、たびたび保険金請求を行っていた。

④ 同乗者Cも過去に同様の請求

  • 本件ではA車両の助手席に同乗していたCも被害者として訴訟に参加していたが、Cも過去にAとともに類似の事故で保険金を請求していた経緯があり、信頼性に疑問がもたれた。

これらの事情を総合的に考慮し、裁判所は「Aは事故を意図的に誘発した(いわゆる“当たり屋”行為)」と認定し、損害賠償請求を退けました。なお、原審(千葉地裁令和3年8月26日判決)でも同様の判断がなされています。

まとめ

交通事故においては、通常、追突された側が「被害者」として扱われますが、本件のように被害者側の行動に不自然な点があれば、損害賠償請求が認められない場合もあるということが示されました。

被害を与えてしまったとしても、すべての請求がそのまま認められるわけではありません。万が一、相手方から高額な賠償請求を受けたり、「刑事告訴も検討している」などと強く迫られた場合でも、冷静に対応し、まずは法律の専門家に相談することが重要です。

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【監修】

米玉利大樹
米玉利大樹代表弁護士
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