相続をめぐる問題のなかには、養子縁組に由来するトラブルも少なくありません。特に、養親や養子が亡くなった後に「もう親族として関わりたくない」と感じるケースでは、「死後離縁」という制度を利用できることがあります。
本コラムでは、死後離縁の基本的な仕組みや手続きの流れ、注意点などについて、弁護士の視点からわかりやすく解説します。
死後離縁とは?
死後離縁とは、養親または養子が死亡した後に、養子縁組を解消する手続きです。民法811条6項に基づき、当事者の一方が死亡しているため、家庭裁判所の許可が必要となります。
申立てができるのは、原則として存命の当事者(養親または養子)本人に限られます。
死後離縁の効果
死後離縁が認められると、以下のような法的効果があります。
親族関係の消滅と扶養義務の終了
養親と養子の間の法律上の親子関係および親族関係が消滅します。これにより、養子は養親の血族(実子・親・兄弟姉妹など)に対する扶養義務を負わなくなります。
相続権は維持される
注意すべきは、すでに発生した相続には影響しないという点です。死後離縁の効果は将来に向けて生じるため、養親や養子の死亡時に相続人であった場合、その地位は離縁後も維持されます。
メリットとデメリット
メリット
- 親族との関係を断てる:養親の親族と折り合いが悪い場合でも、死後離縁によって法的な関係を解消できます。
- 扶養義務からの解放:将来的に養親の兄弟姉妹などから経済的・介護的支援を求められることがなくなります。
デメリット
- 遺族年金が受け取れない:親族関係がなくなることで、遺族年金などの受給権も喪失します。
- 名字の変更が必要:養子縁組中の名字は原則として使用できなくなり、旧姓へ戻る必要があります(ただし条件を満たせば継続使用も可能)。
死後離縁の注意点
申立てが認められないケースもある
たとえば、養親から多額の贈与や遺産を受け取っているにもかかわらず、その後すぐに死後離縁を申し立てたような場合、「扶養や祭祀承継から逃れるための不当な動機」と判断され、家庭裁判所が許可しない可能性があります。
相続放棄とは別物
死後離縁によって親族関係は終了しますが、借金などマイナスの遺産の相続を避けるには別途「相続放棄」の手続きが必要です。放棄には「相続を知ってから3か月以内」という期限があるため、注意が必要です。
死後離縁の手続きの流れ
- 家庭裁判所に申立て
- 養親・養子の戸籍謄本、申立書、収入印紙などを提出
- 家庭裁判所の審理・審判
- 審判確定後、確定証明書を取得
- 市区町村に離縁届を提
まとめ
死後離縁は、一度許可されると撤回できない不可逆的な制度です。扶養義務や親族関係の解消を望む事情がある一方で、相続や年金、氏の変更など多方面に影響が及びます。
制度を正しく理解し、他の手続き(例:相続放棄)との違いも踏まえたうえで判断するためにも、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
【監修】

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