金銭の貸し借りが問題となる場面の中には、その背景に「愛人関係」や「性的サービス」が絡んでいるケースもあります。こうした場合、貸金の返還請求は認められるのでしょうか?今回は、実際に裁判で争われた2つの事例をもとに、「不法原因給付(民法708条)」の考え方とその限界について解説します。

■ 大阪地方裁判所判決(平成24年4月24日判決)

不倫関係の継続を期待した貸金―一部返還は認められる?

この事案では、既婚男性がスナック勤務の女性に対して繰り返し金銭を貸し付け、合計約3,000万円の返還を求めて訴えを提起しました。女性側は、貸金は不倫関係を維持するためのものであり、「不法原因給付」として返還の必要はないと主張しました。

裁判所は、確かに貸付の背景には不倫関係が存在していたと認定しつつも、女性もその関係を利用して金銭を引き出したと判断。結果、借主である女性の責任も重いとして、「不法原因給付にあたるのは2分の1にとどまる」とし、残る半額の約1,544万円の返還を命じました。

この判決は、「愛人契約だから全額返さなくてよい」とは一概に言えず、当事者双方の不法性のバランスを見て、一部返還が認められる可能性があることを示しました。

■ 東京地方裁判所判決(令和2年12月18日判決)

性風俗店勤務女性への金銭提供―貸金として返還を命じた例

一方で、東京地裁の事例では、原告が性風俗店で知り合った女性に対し、複数回に分けて合計315万円を渡していたことが問題となりました。女性側は、金銭は「売春の対価」または「贈与」であり、返済義務はないと主張。不法原因給付にあたるから、返還する必要はないというのです。

しかし裁判所は、金銭がマンションの初期費用や借金返済などの具体的な使途に基づいて交付されたこと、返済を前提としたショートメールのやり取りがあったことなどから、「金銭消費貸借契約が成立しており、不法原因給付にはあたらない」と判断。全額の返還を命じました。

この判例は、たとえ情交関係が背景にあっても、それが金銭交付の「動機の一部」に過ぎない場合には、不法原因給付とはならず、法的に返還請求が認められることを示しています。

まとめ

これらの判例から学べるのは、貸金返還請求において、金銭交付が不法な動機に基づいて行われた場合でも、必ずしも返還請求が全額否定されるわけではないということです。特に、借金をした当事者が不法な目的で金銭を受け取った場合、その返還が一部認められることがあります。したがって、契約の背景に不法な動機があっても、契約が成立した以上、返還請求を完全に拒むことは難しいということを示しています。

【監修】

米玉利大樹
米玉利大樹代表弁護士
年間数百件の法律相談を受け、年間100件以上の法律問題を解決しています。
「より良い解決」「迅速な解決」を大事にしており、個々の事案に適したスピーディな進行・解決を心がけています。
まずはお気軽にご相談ください。
詳細は弁護士紹介ページをご覧ください。
横浜

LINEでお問い合わせ

※スマートフォンでご覧の方はボタンをタップして友だち追加できます。

お電話でのご予約・お問い合わせ

045-548-6197

営業時間:平日9:30~17:00