「土下座しろ」「SNSで晒すぞ」「社長を出せ」 理不尽な要求で従業員を精神的に追い詰める「カスタマーハラスメント(カスハラ)」。

東京都の防止条例施行(2025年)を皮切りに、2026年現在、国レベルでも「企業が従業員をカスハラから守る措置」を法的に義務付ける動きが加速しています。 もはやカスハラ対策は「現場の我慢」で済ませる問題ではなく、企業の「安全配慮義務(法的責任)」です。

本記事では、法改正の動向を踏まえ、企業が今すぐ整備すべき「対応マニュアル」の基準と、毅然とした対応のポイントを解説します。

「正当なクレーム」と「カスハラ」の境界線

対策を講じる上で最も重要なのは、現場スタッフが迷わないための「定義」です。 厚生労働省のマニュアル等では、以下の2点の組み合わせで判断します。

  1. 要求内容の妥当性(その要求は正当か?)
  2. 手段・態様の相当性(その言い方は社会通念上許されるか?)

たとえ商品に不備があったとしても(要求内容に妥当性があっても)、以下のような行為があれば「カスハラ」と認定し、対応を打ち切る基準を設けましょう。

  • 【即アウト(レッドカード)】
    • 身体的な暴力、威嚇、土下座の強要。
    • 差別的な発言、人格否定。
    • 性的な言動(セクハラ)。
  • 【継続すればアウト(イエローカード)】
    • 大声での怒鳴り散らし。
    • 長時間の拘束(居座り、長電話)。
    • 何度も同じ内容を執拗に繰り返す。
    • 「SNSで拡散する」という脅し。

現場を守る「三種の神器」:録音・組織対応・警察連携

従業員個人に対応を任せると、精神的な負担で離職につながります。企業は以下の仕組みを必ず導入してください。

① 「録音」の常態化と告知

「言った言わない」の水掛け論を防ぐため、ボイスレコーダーや通話録音は必須です。 「サービス向上のため、また正確な対応のために会話を録音させていただきます」と事前告知することは、カスハラ抑止に非常に高い効果があります。

② 「組織対応」への切り替え

担当者一人で対応させず、必ず複数名で対応する、または上席(「クレーマー対応専門担当」という役職でも可)にバトンタッチするルールを決めます。 「私の一存では決められませんので、会社として検討し回答します」と持ち帰ることで、相手のヒートアップを冷ます時間を稼げます。

③ 警察・弁護士との連携ライン

「殺すぞ」「店を潰すぞ」といった発言は、脅迫罪威力業務妨害罪に該当する可能性があります。 ためらわずに警察へ通報する基準(「退去を求めても従わない場合」など)を明確にし、所轄の警察署と事前に相談しておくとスムーズです。


3. 具体的な「お断り」トークスクリプト

現場スタッフが最も困るのは「どうやって電話を切ればいいか」「どうやって帰ってもらえばいいか」です。以下のような定型文(スクリプト)を用意しましょう。

  • 大声で怒鳴られた場合「お客様、大声を出されますと、通常の対応ができかねます。冷静にお話しいただけない場合は、対応を打ち切らせていただきます。」
  • 過度な金銭要求や土下座を求められた場合「そのようなご要求には、会社として一切応じられません。」(※「できません」ではなく「応じません」と毅然と言う)
  • 長時間拘束された場合「これ以上お話ししても平行線ですので、本日の対応はここまでとさせていただきます。お引き取りください。」

重要なのは、「納得してもらうこと」をゴールにしないことです。「こちらの意思を伝えること」をゴールに設定し直しましょう。

企業が背負うリスク:対策しないと訴えられる?

カスハラ対策を怠り、従業員がうつ病を発症したり自殺したりした場合、企業は安全配慮義務違反として多額の損害賠償を請求されるリスクがあります。

2026年現在、就業規則や利用規約(約款)に「カスハラ行為があった場合の利用停止・契約解除」条項を盛り込む企業が急増しています。 「お客様」はお金お払ってくれる人であり、従業員を傷つける人は「加害者」である。この線引きを経営トップが明確に示すことが、最強の対策になります。

まとめ

「カスハラ対策」は、単なるトラブル処理ではありません。 「うちは従業員を大切にする会社です」という、社内外への強力なメッセージになります。

人手不足が深刻なサービス業界において、従業員が安心して働ける環境こそが、企業の競争力を左右します。 まだマニュアルがない企業は、今すぐに作成に着手してください。

【監修】

米玉利大樹
米玉利大樹代表弁護士
年間数百件の法律相談を受け、年間100件以上の法律問題を解決しています。
「より良い解決」「迅速な解決」を大事にしており、個々の事案に適したスピーディな進行・解決を心がけています。
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