昨今「パワハラ」被害を訴える人が急増しています。
ですが、そもそも「パワハラ」とは何を意味するのでしょうか。暴力や叱責のみが「パワハラ」でしょうか。叱責が「パワハラ」だとして、何を言ったら、または何を言われたら「パワハラ」なのでしょうか。裁判上では何が「パワハラ」と認定されるのでしょうか。「パワハラ」と認定されたとして損賠償額の相場はいくらくらいでしょうか。そのあたりの疑問について解説します。
パワハラとは
パワー・ハラスメント(パワハラ)は、
「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、
業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就労環境が害されること」
と定義されています(労働施策総合推進法)。
パワハラの類型
一般的にパワハラとは以下の6類型に分かれるものと言われています。
- 身体的な攻撃(暴行・傷害)
- 精神的な攻撃(脅迫・暴言等)
- 人間関係からの切り離し(隔離や無視)
- 過大な要求(業務上明らかに不要なことや不可能なことの強制)
- 過少な要求(業務上の合理性なく能力や経験からして程度の低い仕事を強制)
- 個の侵害(私的なことに立ち入る)
違法性&損害に関する判断
パワハラに関する各類型ごとに違法性や損害代表的な裁判例を紹介します。
各類型にまたがる複数の行為が認定されているものもあります。
身体的な攻撃
病気休職した職員を退職に追い込むため上司と同僚が繰り返し、ネクタイを引っ張って転倒させる、シンナーを撤布する、火のついたたばこをぶつける等の暴行を加え、「早く辞表を書いて、出てけ。この部屋から」「おまえがゴミだよ。死ね。」などの暴言を繰り返した事案で使用者に慰謝料270万円と弁護士費用30万円の支払いが命じられた事例
東京都ほか(警察庁海技職員)事件(東京地方裁判所平成20年11月26日判決)
店長の業務上の不備を指摘したところ休憩室で店長から頭部等に暴行を受けて入通院し、会社から労災への切替を求められていた労働者がその手続きのために別の従業員と電話で通話中に「いいかげんにせいよ、お前。おー、何考えてるんかこりゃ。ぶち殺そうかお前。調子に乗るなよ、お前」等と声を荒げて申し向けるなどの不当な対応を受けたという事案で、この暴行暴言により精神障害を発症し、判決言い渡しから2年3か月後には治療する見込みが高いとしてその時点までの休業損害と慰謝料500万円を認めた事例
ファーストリテイリングほか(ユニクロ店舗)事件(名古屋地方裁判所平成18年9月29日判決)
使用者が、度重なる注意を受けても何十回以上も同じ仕事上の間違いを繰り返す従業員に対し、厳しい注意、叱責を繰り返すなかで、少なくとも2度にわたって顔面を平手で殴打する暴行を加え、暴行の約2週間後に当該従業員が自殺を図った事案において、使用者の行為が労働者に対する指導・対応の範囲を逸脱する不法行為としたうえで、何十回以上も同じ間違いを繰り返す従業員に対して時として激しい叱責に及ぶこともやむ得えず、従業員が自殺を図ったことが何らかの精神疾患に罹患した結果とは認められないこと等から5割の過失相殺をした事例
A庵経営者事件(福岡高等地方裁判所平成29年1月18日判決)
精神的な攻撃
上司らから「何であんたがきたのか」「むくみ麻原」「ハルマゲドンが来た」などと執拗にからかわれ、旅行会の夜にナイフを振り回して「今日こそは刺してやる」などと言われて旅行会の4日後から休みがちになり心因反応と診断され旅行会の1年3か月あまり後に自殺した事案で、両親の慰謝料1200万円を認める一方で、いじめから自殺までの期間が長いことから7割の過失相殺をした事案
川崎市水道局事件(横浜地方裁判所川崎支部平成14年6月27日判決)
上司が、作成資料の不備や業務上のミスが多い部下に対して注意指導を繰り返すなかで「新入社員以下だ。もう任せられない」「何でわからない。お前は馬鹿」等の発言をしたことにつき、注意又は指導のための言動として許容される限度を超えるとし、また、うつ病に罹患したとの意思の診断書を示して3か月の休職を申し出た際に有給休暇で消化してほしい等を述べ、休職を阻害する結果を生じさせたことも当該部下の心身に対する配慮を欠く言動として、慰謝料150万円を認めた事例
サントリーホールディングスほか事件(東京高等裁判所平成27年1月28日判決)
人間関係からの切り離しほか
会社の新経営方針の推進に積極的に協力しなかった労働者(課長)を降格させたうえ、総務課(受付)へ配置転換したという事案で、総務課(受付)への配置転換は当該労働者の人格権(名誉)を侵害し、職場内・外で孤立させ、勤労意欲を失わせ、やがて退職に追いやる意図をもってなされたものであるとして、慰謝料100万円が認められた事例
バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件(東京地方裁判所平成7年12月4日判決)
私立学校の学校長が労働組合の中心人物であった教師に対し、10年以上の長期間にわたって何らの仕事も与えずに勤務時間中一人だけ隔離し、隔離による見せしめ的な処遇をしたことについて慰謝料600万円を認めた事例
松陰学園事件(東京高等裁判所平成5年11月12日判決)
上司が労働者に教育訓練と称して就業規則全文を書き写し、その感想文の提出、就業規則の読み上げを命じたことが見せしめを兼ねた懲罰的目的からなされたものであるとして、慰謝料20万円、弁護士費用5万円を認めた事例
JR東日本事件(最高裁判所平成8年2月23日判決)
パワハラへの対応
パワハラ被害にあった場合には民事訴訟により損害賠償を求めるほか、労災の申請を行うことも考えられます。
パワハラをめぐる争いは証拠が不足することが多いと思われます。
証拠としては日々のメモや会話の録音、同僚の陳述書など客観的な記録が重要視されます。
パワハラ被害にあった際にはできる限り早い段階で専門家に相談することをおすすめします。
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