企業で働く人の権利として、「時間外労働や休日労働に対する割増賃金」は極めて重要です。しかし、管理職や管理監督者に該当する場合、割増賃金の支払い義務がなくなることがあります。では、税理士のような専門職はどう判断されるのでしょうか。東京地裁令和6年12月24日判決(CaN International税理士法人事件)をもとに整理します。
事案の概要
原告は税理士資格を持ち、被告税理士法人に雇用され、関連会社の会計アウトソーシング業務に従事していました。原告は勤務期間中、時間外・深夜・休日労働があったにもかかわらず、割増賃金が支払われなかったとして請求しました。一方、被告は原告が「管理監督者」に当たるため、割増賃金の支払い義務はないと主張しました。
管理監督者の判断ポイント
労働基準法41条2号は、管理監督者について「労働条件の決定や労務管理において経営者と一体的な立場にある者」と定めています。具体的には以下の条件が重要です。
- 経営者と一体的な立場にあるか
- 経営判断に関与し、労務管理や業務配分に実質的な権限を持つかどうか。
- 原告の場合、税理士としての業務統括はしておらず、他の従業員に対する労務管理権限も持っていませんでした。
- 自己裁量による労働時間の管理があるか
- 管理監督者は、始業・終業や休憩時間を自ら裁量で決定できることが求められます。
- 原告は、勤務時間や顧客対応について裁量を持っておらず、会社の指示の下で勤務していました。
- 給与額だけでは判断できない
- 高額な賃金が支払われていても、それだけで管理監督者と認められるわけではありません。
- 本件では、原告の年収は比較的高額(700〜800万円)でしたが、裁判所は「給与額のみでは管理監督者に当たらない」と判断しました。
判決のポイント
裁判所は、原告が管理監督者に該当しないと判断しました。その理由として、
- 原告は経営者と一体的立場ではなく、労務管理権限や業務統括権限を有していなかった。
- 原告には勤務時間の裁量がなく、指揮命令下で働いていた。
- 高額の給与が支払われていた事実だけでは管理監督者と認められない。
これにより、被告法人は原告に対し、未払時間外割増賃金の支払い義務を負うと認定されました。結果、原告の請求額の一部(約257万円+遅延損害金)が認められています。
管理監督者の線引きは専門職でも明確に
この判例から分かるのは、税理士などの専門職であっても、以下のような点で管理監督者として扱われるかどうかが判断されるということです。
- 労務管理権限の有無:部下の採用・評価・勤務時間管理などを実質的に行うか
- 経営判断への関与:会社の方針や経営に直接影響を与える権限を持つか
- 勤務時間の裁量:始業・終業や休日の取り扱いを自由に決定できるか
- 給与額だけでは判断できない:給与が高くても管理監督者の要件を満たさなければ割増賃金の対象
この線引きは、特に専門職や高度なスキルを持つ従業員にとって重要です。企業側は「給与が高い=管理職扱い」という安易な判断はできませんし、従業員も「給与だけでは管理監督者と認められない」ことを理解しておく必要があります。
まとめ
- 管理監督者かどうかは、給与額や役職名だけで決まるわけではない。
- 実質的に経営者と一体的立場にあるか、労務管理権限や勤務時間の裁量を持つかがポイント。
- 専門職や高給取りであっても、これらの要件を満たさなければ、割増賃金請求が認められる可能性がある。
本件は、専門職の賃金未払問題において、管理監督者の該当性が争点となった典型例です。給与や役職に惑わされず、実態に即した判断が重要であることを示しています。
【監修】

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