「労働基準監督署から突然、調査の連絡が来た。従業員の誰かが通報したらしい」——未払い残業代やサービス残業、長時間労働について従業員が労基署に申告(通報)することは、労働者の正当な権利です。会社側にとって重要なのは、①調査・是正勧告にどう対応するか、そして②通報者を探したり不利益に扱ったりすることが、重大な違法行為であると正しく理解することです。とくに2026年12月施行の改正公益通報者保護法により、通報への報復は刑事罰の対象になりました。本コラムでは、労基署対応の実務と改正法のポイントを企業側の視点で弁護士が解説します。
労基署の調査はどう進むか——臨検から是正勧告まで
申告を受けた労基署は、事業場への立入調査(臨検)や呼び出し調査を行います。タイムカード・賃金台帳・36協定・就業規則などの提出を求められ、法違反が確認されると次の書面が交付されます。
- 是正勧告書:労基法等の違反に対する是正の勧告。法的強制力はないものの、無視すれば書類送検に進み得る事実上最も重い文書です
- 指導票:法違反とまではいえないが改善が望ましい事項の指導
- 使用停止等命令書:危険な機械・設備に対する使用停止等の命令(行政処分)
是正勧告を受けたら、指定期日までに是正し是正報告書を提出します。未払い残業代の是正では、対象者・遡及期間(実務上は少なくとも直近数か月〜、悪質な場合は消滅時効の3年分)・支払額の設計が重要で、対応を誤ると再監督や送検、従業員からの追加請求につながります。
やってはいけない対応①——「誰が通報したか」を探す
労基署は申告者が誰かを明かしませんが、社内で「チクったのは誰だ」と犯人捜しをする行為は、職場環境を破壊するだけでなく、公益通報者保護の観点から通報者の特定を目的とする行為自体が規制の対象とされる方向にあります。調査への対応は淡々と事実ベースで行い、通報者の詮索は厳に慎むべきです。
やってはいけない対応②——通報者への解雇・減給などの報復
労基署への申告を理由とする解雇その他の不利益取扱いは、労働基準法104条2項で明確に禁止されています。さらに2025年6月に成立した改正公益通報者保護法(2026年12月1日施行)により、保護は大幅に強化されました。
- 公益通報を理由に解雇・懲戒をした場合の刑事罰(6月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、法人にも罰金)が新設されました
- 通報から1年以内の解雇・懲戒は「通報を理由とするもの」と推定する規定が導入され、会社側が「通報とは無関係の処分だ」と立証しない限り違法と扱われます
- 保護対象にフリーランス(業務委託先)が加わりました
つまり「通報されたので辞めさせる」は、民事上無効となるだけでなく、経営者個人が刑事責任を負い得る行為になったのです。通報の前後に予定していた人事措置がある場合は、実行前に必ず法的リスクを精査してください。
通報を「経営改善のシグナル」に変える
労基署への通報は、社内に不満を受け止める仕組みがないことの表れでもあります。①勤怠実態と賃金計算の総点検(固定残業代の設計・管理監督者の範囲は特に違反が多い論点です)、②36協定・就業規則の整備、③社内通報窓口・相談窓口の設置——まで進めれば、再通報・訴訟・人材流出の連鎖を断ち切れます。従業員300人超の企業には内部通報体制の整備義務がありますが、中小企業でも簡易な窓口を設けることが紛争予防として有効です。
まとめ
労基署対応の要点は、①調査には誠実かつ事実ベースで対応する、②是正勧告には期限内に実効的な是正で応える、③通報者の詮索・報復は絶対にしない(2026年12月からは刑事罰)、④原因となった労務管理を根本から見直す——の4点です。横浜キャピタル法律事務所では、臨検の立会い・是正報告書の作成支援・未払い残業代の是正設計・社内体制の整備まで、企業側の労務対応を一貫してサポートしています。労基署から連絡が来てお困りの方は、お早めにお問い合わせください。
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