「不当解雇されたが、証拠がない……」「未払い残業代を請求したいが、会社が協力してくれない……」
労働問題に直面した際、裁判や交渉でご自身の主張を通すには、何より「証拠」が重要です。しかしその多くは、会社が保有しているのが現実です。そんなときに頼れるのが「証拠保全」という手続きです。
今回は、会社と争う前に知っておきたい「証拠保全」の基本とその活用方法について、弁護士の視点から解説します。
証拠保全とは?会社が証拠を出してくれないときの切り札
証拠保全とは、将来の裁判に備えて重要な証拠が失われるのを防ぐため、裁判所に申立てをして証拠を確保しておく手続きです。
たとえば、次のような場面で活用されます。
- 会社が証拠開示に応じてくれない
- 証拠の破棄や改ざんが懸念される
証拠保全は、事前に会社へ通知せずに実施されるため、会社が証拠を隠したり改ざんしたりする余地を与えません。まさに「泣き寝入り」を防ぐための強力な手段です。
ケース別:どんな証拠を確保すべきか?
労働問題の内容に応じて、必要となる証拠は異なります。
残業代請求
- タイムカードや勤怠記録
- パソコンのログデータ
- 業務日報や入退室記録
→ 残業時間の裏付けが必要です。会社の管理システムにログインして閲覧できる場合は、スマホで撮影しておくと有効です。
不当解雇・退職勧奨
- 雇用契約書、就業規則
- 解雇通知書、解雇理由証明書
- メールや書面でのやりとり
→ 「解雇が正当かどうか」を判断するには、会社側の主張を文書で確認する必要があります。
ハラスメント
- 録音・録画データ
- ハラスメントの発言内容を記録したメモ
- 医師の診断書
→ 客観的な証拠が乏しい分野だからこそ、録音やメモの積み重ねが命運を分けます。
証拠収集の注意点――やり方を間違えると逆効果
証拠を集める際には、以下のようなリスクにも注意が必要です。
- 会社に知られないように進める
→ 証拠隠滅や妨害のリスクがあります。 - 他人のプライバシーや会社の秘密に配慮
→ 無関係な情報をむやみに取得すると、損害賠償や懲戒処分の対象となる可能性があります。 - 就業規則や法令違反にならないように
→ 無断撮影や書類持ち出しには慎重になるべきです。
証拠集めは「やり方次第で合法にも違法にもなる」領域です。判断に迷ったら、必ず弁護士に相談しましょう。
証拠保全は個人でできる?――申立書の作成や裁判所対応は困難も
証拠保全は、手続きとしては個人でも申立て可能です。しかし実務上は、以下のようなハードルがあります。
- 裁判所を説得するための法律的な説明能力
- 書類作成や面接に必要な専門知識と経験
- 相手方への迅速な対応能力
書類の不備や理由の不明確さから、申立てが却下されてしまうことも少なくありません。確実に証拠を押さえるためには、弁護士の関与が重要です。
弁護士に依頼する3つのメリット
1.証拠集めの初期段階から戦略的に動ける
早期に相談すれば、証拠収集のタイミングや方法についても的確なアドバイスが受けられます。
2.会社が協力しない場合にも対応できる
任意の開示請求や、緊急の場合には証拠保全の申立てまで対応できます。
3.交渉・法的手続きも任せられる
労働審判や訴訟を見据えた戦略的な交渉も、弁護士が代理人として行います。
まとめ
労働問題を争うには、「どれだけ正しいか」ではなく「どれだけ証拠があるか」が問われます。
そしてその証拠は、会社が握っていることも少なくありません。
泣き寝入りを避けたいなら、まずは冷静に証拠を集めること。そして必要に応じて「証拠保全」という制度を活用することが鍵となります。
労働者個人では難しい局面もありますので、可能な限り早い段階で弁護士にご相談ください。
【監修】
- 代表弁護士
- 年間数百件の法律相談を受け、年間100件以上の法律問題を解決しています。
「より良い解決」「迅速な解決」を大事にしており、個々の事案に適したスピーディな進行・解決を心がけています。
まずはお気軽にご相談ください。
詳細は弁護士紹介ページをご覧ください。
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