「売掛金を払ってもらえない」「賃料を滞納されている」
──そんな債権回収の場面で、いざ裁判を起こしても、相手に財産がなければ意味がないという事態に直面することがあります。
実はこのようなリスクを防ぐための重要な手続が、「仮差押え」や「仮処分」です。
今回は、それぞれの手続の違いやメリット・デメリットについて、分かりやすく解説します。
仮差押えと仮処分の違いとは?
「仮差押え」や「仮処分」は、訴訟前や訴訟中に行う民事保全手続で、目的は相手の財産処分を防ぎ、将来の回収を確実にすることです。
手続名 | 対象となる債権 | 目的 |
---|---|---|
仮差押え | 金銭債権(売掛金・貸金など) | 財産を仮に差し押さえ、強制執行に備える |
仮処分 | 非金銭債権(不動産明渡請求・権利保全など) | 現状を維持して、将来の権利実現を確保する |
たとえば、賃貸物件の明渡請求であれば「仮処分」、売掛金の回収であれば「仮差押え」が活用されます。
仮差押えとは?
仮差押えとは、金銭債権に関する請求を裁判所で認めてもらう前に、相手の預金や不動産などの財産を一時的に差し押さえる手続です(民事保全法20条)。
相手に知られないうちに命令が出されることもあり、発覚すると債務者に大きな心理的・経済的プレッシャーを与えることができます。
例:
- 相手の預金口座を仮差押え ⇒ 引き出し不可に
- 車や不動産の仮差押え ⇒ 売却不可に
ただし、実際に財産を換金して回収するには、本訴(通常訴訟)での勝訴が前提です。
仮処分とは?
仮処分は、金銭以外の権利(物件の使用権・明渡請求など)を実現するために、現状を維持する手続です(民事保全法23条)。
たとえば、明渡請求中の物件について、
- 第三者への売却や使用を禁じる「処分禁止の仮処分」
- 占有を他人に移すのを禁じる「占有移転禁止の仮処分」
といった手続で、対象物件の状態をそのまま保たせます。
仮差押え・仮処分のメリット
① スピード対応が可能
事前準備が整っていれば、数日〜1週間ほどで命令が出ることもあります。本訴の判決まで数か月〜1年以上かかることを思えば、大きな差です。
② 債務者の財産を守れる
手続によって、債務者が預金を引き出したり不動産を売却したりできなくなるため、将来の回収が可能な状態を確保できます。
③ 交渉を有利に進められる
仮差押え命令が出ると、相手の事業や生活に影響を与えることも多く、早期和解や任意支払いに繋がるケースもあります。
仮差押え・仮処分のデメリット
① 保証金が必要
裁判で敗訴した場合に備えて、担保として保証金の供託が求められます。金額は対象財産や請求額に応じて異なります。
② 資料の準備が不可欠
申立てには、請求の根拠(契約書、請求書など)や差押え対象の特定(銀行口座、不動産情報など)が必要です。事前の証拠収集と戦略的準備が重要です。
③ 仮命令が出ても本訴で敗訴する可能性
あくまで「仮の保全」なので、本訴で負ければ仮差押え・仮処分は解除され、損害賠償請求を受けるリスクもあります。
まとめ
- 裁判で勝っても財産がなくては回収できません。
- 仮差押え・仮処分は、財産を守るための「攻めの保全策」です。
- 保証金や証拠準備など負担もあるため、事前に弁護士に相談することが重要です。
債権回収は「スピードと準備」が成功のカギです。
「相手が財産を処分してしまう前に動きたい」と感じたら、仮差押えや仮処分の活用をご検討ください。
【監修】

- 代表弁護士
- 年間数百件の法律相談を受け、年間100件以上の法律問題を解決しています。
「より良い解決」「迅速な解決」を大事にしており、個々の事案に適したスピーディな進行・解決を心がけています。
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