業務中の事故や疾病により従業員が負傷すると、会社は「労働災害(労災)」への対応を迫られます。労災保険による補償がある一方で、会社は「使用者責任」や「安全配慮義務違反」に基づいて損害賠償を請求される可能性も否定できません。初動を誤れば、労働審判や訴訟に発展し、企業イメージや経営に深刻な影響を与えることもあります。本コラムでは、労災発生時に会社がとるべき対応と法的リスクについて、裁判例や実務の観点から解説します。
労災発生時に企業が負う可能性のある法的責任
(1)使用者責任(民法715条)
従業員が同僚の過失行為によって負傷した場合、会社は「使用者責任」を負う可能性があります。
例:建設現場で作業員が誤って資材を落下させ、他の従業員が負傷したケース。
会社は「相当の注意を尽くした」ことを立証すれば責任を免れますが、裁判例上、この立証は極めて困難です。
(2)安全配慮義務違反(労働契約法5条)
会社は、従業員が安全に労働できるように環境を整える義務を負います。
裁判例(電通事件・最二小判平成12年3月24日)でも、長時間労働により従業員が自殺したケースで、安全配慮義務違反が認められました。
労災手続きに関する会社の義務
(1)労働者死傷病報告の提出
労災で従業員が死亡・休業した場合、遅滞なく所轄の労基署に「労働者死傷病報告」を提出する必要があります(安衛則97条)。
報告を怠れば、法人や担当者に刑事罰が科されるおそれがあります。
(2)労災保険給付の申請への協力
労災保険給付は、会社の損害賠償責任を一定程度肩代わりする制度です。会社が協力的な姿勢を示すことで、従業員の不信感を軽減し、紛争化を防ぐ効果も期待できます。
実務での対応ポイント
(1)従業員への誠実な対応
事故後の従業員へのケアは最優先です。休業補償や復職支援について真摯に対応することで、法的トラブルを未然に防ぎやすくなります。
(2)早期の専門家相談
従業員側の不満が強い場合、労働審判や訴訟に発展することがあります。
弁護士に早期相談すれば、紛争予防のための戦略立案から、万一訴訟になった場合の対応まで、一貫したサポートを受けることが可能です。
まとめ
労災発生時、会社は「報告義務」と「従業員への誠実な対応」が不可欠です。加えて、使用者責任や安全配慮義務違反による損害賠償リスクもあるため、初期対応から弁護士に相談することで、企業の法的リスクを最小限に抑えることができます。
労災問題に備えたい企業経営者・人事担当者の方は、ぜひ労働問題に精通した弁護士へ早めにご相談ください。
【監修】
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