近年、化粧品や健康食品の通販サイトでよく見かける「初回限定1,980円」「今だけ特別価格!」という文言。お得に見えるこのような広告の裏に、「定期購入の縛り」があることをご存じでしょうか。こうした表示について「誤認を招くのではないか」との問題提起がなされ、適格消費者団体が企業を相手取り、景品表示法に基づく差止請求訴訟を提起したのが、今回取り上げる裁判例(京都地判令和5年8月30日)です。
裁判の概要
被告企業は、化粧品を定期購入契約で販売しており、初回は約80%引きの「特別価格」、2回目以降は通常価格の約40%引きで2個ずつ販売するという方式をとっていました。消費者が初回のみで解約する場合には、特別価格と通常価格との差額を請求するという条件付きです。
これに対し、適格消費者団体が「初回だけを割安に購入できるかのように誤認させる有利誤認表示だ」と主張し、差止めを求めて提訴しました。
裁判所の判断
裁判所は、以下のように判断し、原告の請求を棄却しました。
一般消費者の基準
まず裁判所は、表示の誤認可能性を判断するにあたり、「健全な常識を備えた一般消費者」を基準とすべきとしました。これは、若年層や高齢者といった判断力の乏しい層を基準とする原告の主張を退けるものです。
表示の内容と構成
表示内容を見ると、「定期」という言葉は複数回使用され、また契約条件や解約のルールも、目立つ色文字で表示されていたと認定されました。さらに、申込みまでに表示が何度も繰り返されていたことも評価され、「定期購入であることを一般消費者は十分に認識できる」と判断されました。
表示変更の影響
被告企業は、訴訟中にウェブ表示を一部修正していました。これについて裁判所は、「変更後の表示は誤認を生じさせるものではなく、また今後も誤認を招く表示を行うおそれも直ちには認められない」として、差止めの必要性を否定しました。
何が問題で、何が問われたのか?
本件の争点は、以下の2点に集約されます。
- 「定期購入契約であること」が消費者に十分伝わっていたかどうか
- 表示内容が「初回だけ安く買える」と誤認させるほど有利に見えたかどうか
この裁判では、いずれも消費者にとって不利益な判断となりましたが、その背景には「定期購入である旨の表示が繰り返されていたこと」が大きく影響しています。つまり、「情報がそこに示されていたなら、見なかった消費者の自己責任」とされたのです。
消費者と事業者双方への教訓
消費者側の注意点
「初回限定」や「特別価格」という言葉に惹かれて安易に申込みをすると、実は定期購入の縛りがあったというケースは少なくありません。ネット上の表示は一見わかりにくくても、契約条件や解約条件が明記されている限り、「見落とし」は法的に不利に扱われる可能性があります。慎重に読み、申込み前に画面をスクロールして条件を確認する習慣が必要です。
事業者側の留意点
本判決では企業側に有利な判断が下されたとはいえ、消費者庁のガイドラインやトラブル事例は今後も増加傾向にあります。今回のように「何度も表示されていたからセーフ」だとしても、逆に言えば「表示方法次第では違法となる余地がある」ということ。今後はより一層、分かりやすく・誤認の余地を排除した表示が求められるでしょう。
まとめ
「初回特別価格」は魅力的ですが、その裏にある定期購入の縛りには十分な注意が必要です。今回の裁判では事業者側に軍配が上がりましたが、表示のあり方が争点となるこの種の事件は今後も増えると予想されます。消費者としても、事業者としても、「表示」の読み方・出し方に対する意識が問われる時代になってきたといえるでしょう。
【監修】

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