賃貸借契約の終了事由は、契約書上で定められた条件だけでなく、実務上の判断や正当事由の有無が争点になることがあります。特に賃借人が突然連絡不能となった場合、賃貸人は契約を終了して明渡しを求められるのでしょうか。

今回取り上げる裁判例は、賃借人の長期不在(行方不明)を理由に契約を終了し、明渡しを求めた事案です。裁判所は、契約条項の解釈や信頼関係の有無等を総合的に判断し、賃貸人の主張を一部棄却しました。

(東京地裁令和5年3月9日判決)


事案の概要

賃貸人Xと賃借人Yは、平成27年1月に建物の一室に関する賃貸借契約を締結しました。契約条項には、「賃借人が無断で2か月以上不在となった場合、賃借権放棄とみなして契約を終了する」という特約が含まれていました。

その後、Yは2回の合意更新を経て契約が継続しましたが、令和元年頃から連絡が取れず行方不明となりました。預金口座からの家賃は支払われ続け、賃料の滞納はありませんでした。Xは、不在期間が長引いたことを理由に賃貸借契約の終了を主張し、明渡しを求めて訴訟を提起しました。


裁判所の判断

裁判所は、本件に関して次のように判断しました。

① 特約による契約終了の有効性

契約書に「無断不在2か月で契約終了」とする特約があるものの、裁判所はこれだけで直ちに契約が終了したとは認めませんでした。
判示としては、長期不在が賃貸人の利益を損なう危険性は認められるものの、賃借人が行方不明になった事情や信頼関係の破壊が明確に認定できない限り、契約解除は認められないとされました。

また、賃借人が長期不在であるものの、預金口座から家賃は支払われていました。これにより賃借人の基本義務(家賃支払義務)が継続して履行されている点が考慮されました。

② 解約申入れ(正当事由)の評価

裁判所は、特約による解除請求を棄却しつつも、賃貸人Xが正当事由に基づく契約解約申入れを行ったことを評価しました。
不在者による賃貸管理困難、建替え計画への影響、他住戸の賃借人状況などを総合的に考慮し、賃貸人の申入れが正当事由を満たすと判断しました。結果として、Yに立退料50万円を提示する条件で明渡しが認容されています。


実務上のポイント

この事例から、賃貸借契約の終了や明渡し請求が認められるための実務的なポイントを整理します。

■ 特約だけで契約終了を安易に主張できない

契約書に「不在で終了」とある場合でも、その条項が直ちに契約解除の根拠になるとは限りません。特約の合理性や賃貸人の利益の侵害状況、信頼関係の有無等を総合的に検討する必要があります。

■ 家賃支払状況は信頼関係評価で重視される

賃貸人が賃借人の所在不明を理由に契約を終了したい場合、家賃支払の有無や履行状況が信頼関係の判断に影響します。未払が続いていない事例では、単純な不在自体が契約破壊に直結しません。

■ 正当事由としての解約申入れの検討

契約特約が効力を生じない場合でも、民法上の正当事由(借地借家法27条等)に基づく解約申入れで明渡しが認容される可能性があります。長期不在による管理困難や建替えの必要性などの事情を整理し、立退料の提示等も視野に入れて対応します。


まとめ

本件は、賃借人が行方不明となった場合でも、単に特約だけで賃貸借契約を終了させることができないことを示しています。特に、家賃支払が継続しているケースでは、契約の信頼関係が直ちに破壊されたとはいえません。

一方で、契約特約を補完する形で正当事由に基づく解約申入れを行うことで、立退料と引き換えに明渡しを認めさせることは可能です。

賃貸管理実務では、特約の運用だけでなく、状況の全体像を踏まえて解除・解約手続きを進めることが求められます

【監修】

米玉利大樹
米玉利大樹代表弁護士
年間数百件の法律相談を受け、年間100件以上の法律問題を解決しています。
「より良い解決」「迅速な解決」を大事にしており、個々の事案に適したスピーディな進行・解決を心がけています。
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