親が亡くなって銀行に連絡したら、口座が止まってお金が引き出せなくなった。葬儀費用や入院費の支払いが迫っているのに、どこから手をつければよいかわからない――相続の相談で、最初に出てくることが多いのが銀行口座の手続きです。

本記事では、亡くなった方の預金を相続人が受け取るまでの流れと、必要書類、遺産分割の前でも一部を引き出せる制度を、順を追って整理します。

結論:預金は遺産分割の対象。分割前でも「一定額」なら単独で引き出せる

亡くなった方の普通預金や定期預金は、相続開始と同時に相続分に応じて当然に分けられるものではなく、遺産分割の対象になります(最高裁平成28年12月19日大法廷決定)。そのため、原則として、遺産分割協議がまとまるか、遺言に基づいて手続をするまでは、相続人の一人が自分の取り分だけを自由に引き出すことはできません。

ただし、葬儀費用や当面の生活費に困らないよう、遺産分割の前でも一定額までは相続人が単独で払戻しを受けられる制度があります(民法909条の2)。

1. 銀行口座の相続手続きの流れ

金融機関によって細かな手順や書式は異なりますが、おおむね次の流れで進みます。

No.やることポイント
1銀行に死亡を連絡する口座の入出金が止まる。公共料金などの引落しも止まるので、支払方法の変更を並行して進める
2残高証明書を取り寄せる死亡日時点の残高を確認する。相続税の申告が必要かどうかの判断にも使う
3相続人を確定する亡くなった方の出生から死亡までの戸籍と、相続人全員の戸籍を集める
4遺言の有無を確認する遺言があれば、その内容に沿って手続する
5遺産分割協議をする誰がどの預金を取得するかを決め、遺産分割協議書を作る
6銀行に書類を出して払戻し・名義変更銀行所定の相続届に、相続人全員が署名・押印することが多い

2. 必要書類と「戸籍の束」を減らす方法

一般的に求められるのは、銀行所定の相続届、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍(除籍)謄本、相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書、遺産分割協議書(または遺言書)、通帳・キャッシュカードなどです。どの書類が必要かは金融機関によって異なるため、必ず事前に確認してください。

法定相続情報証明制度を使う

口座が複数の銀行にある場合、戸籍の束をそれぞれの窓口に出すのは大きな手間です。そこで使えるのが法定相続情報証明制度です。戸籍一式と、相続関係をまとめた「法定相続情報一覧図」を法務局に出すと、登記官が内容を確認し、認証文付きの一覧図の写しを交付してくれます(不動産登記規則247条)。交付の手数料はかからず、提出した戸籍は返却されます。

この写しは、相続登記だけでなく預金の払戻しなど各種の相続手続に使えると法務省は説明しています。ただし、一覧図に載るのは相続開始時点の相続人だけで、相続放棄や遺産分割の内容は記載されません。それらを示す書類は別に必要です。また、一覧図で足りるかどうかの扱いは提出先によって異なります。

3. 遺産分割の前に引き出せる額の計算方法

遺産分割の前でも、各相続人は、次の額までなら他の相続人の同意なしに単独で払戻しを受けられます(民法909条の2)。

単独で払戻しを受けられる額 = 相続開始時の預金額 × 3分の1 × その相続人の法定相続分

ただし、同じ金融機関からは150万円までという上限が法務省令で決められています。

例計算引き出せる額
A銀行の普通預金600万円・相続人は子2人(各2分の1)600万円×1/3×1/2100万円
B銀行の普通預金1,500万円・相続人は子2人1,500万円×1/3×1/2=250万円150万円(上限)

割合による上限は口座(預金債権)ごとに計算します。たとえば同じ銀行に普通預金300万円と定期預金240万円があり、法定相続分が2分の1の相続人なら、普通預金から50万円、定期預金から40万円までです。普通預金からまとめて90万円を引き出すことはできません。

この制度で払戻しを受けた分は、その相続人が遺産の一部を分割で取得したものとみなされます。つまり「前借り」であって、最終的な取り分は遺産分割の中で精算されます。

もっと大きな額が必要なとき

上限を超える資金が必要な場合は、遺産分割の調停や審判を申し立てたうえで、家庭裁判所に預金の仮分割の仮処分を求める方法があります(家事事件手続法200条3項)。相続債務の支払いや相続人の生活費などのために必要と認められ、他の相続人の利益を害しない場合に、特定の預金を仮に取得させてもらえる制度です。

4. 遺言があるときの手続き

「長男に○○銀行の預金を相続させる」といった、特定の財産を特定の相続人に承継させる遺言(特定財産承継遺言)があり、遺言執行者が指定されている場合、遺言執行者は預金の払戻しを請求できます。預金の全部が遺言の対象になっているときは、解約の申入れもできます(民法1014条3項)。遺言執行者がいれば、相続人全員の署名を集めなくても手続を進められるのが大きな利点です。

5. 平日に何度も窓口へ行けないとき

銀行の相続手続きは、平日の日中に窓口へ出向いたり、何度も書類のやり取りをしたりする必要があります。口座が複数の銀行にまたがり、相続人が遠方に住んでいると、それだけで数か月かかることも珍しくありません。

戸籍の収集から遺産分割協議書の作成、各金融機関での解約・払戻しまでをまとめて任せる方法もあります。相続人の間に争いがなく、手続の手間だけが負担になっている場合は、弁護士による遺産整理(相続手続きの代行)をご検討ください。当事務所の遺産整理は着手金なし、報酬は遺産総額の1.1%(最低報酬金55万円)です。なお、相続税の申告が必要な場合は、連携する税務事務所とともに対応します。

まとめ

亡くなった方の預金は遺産分割の対象で、原則として分割が終わるまで自由には引き出せません。ただし、口座ごとに「預金額×3分の1×法定相続分」、同じ銀行で150万円までなら、分割前でも単独で払戻しを受けられます。戸籍の束は法定相続情報証明制度で減らせます。必要書類は金融機関ごとに違うので、まず各銀行に確認し、手続の全体像をつかんでから動き出すのが近道です。

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米玉利大樹
米玉利大樹代表弁護士
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