「電話とLINEで頼まれて工事をしたのに、代金を払ってもらえない」「契約書を作っていなかったので、請求できるのか不安」。リフォームや内装、下請工事では、契約書を交わさないまま着工することが少なくありません。結論からいえば、契約書がなくても請負契約は成立しており、工事代金は請求できます。争いになるのは「いくらで、どこまでの工事を頼まれたか」の立証です。本記事では、契約書がない工事代金の未払いについて、証拠の集め方、金額の決め方、回収の手順を工事をした側の視点で解説します。
契約書がなくても工事代金は請求できる
請負契約は、仕事の完成と報酬の支払いを約束すれば成立し、書面は要件ではありません(民法632条)。建設業法19条は工事の請負契約を書面で結ぶよう義務づけていますが、これは業者に対する行政上のルールで、違反しても契約が無効になるわけではありません。
金額を決めていなかった場合でも、請け負った側が事業者であれば、相当な報酬を請求できます(商法512条)。「見積りを出す前に着工した」「追加工事の金額を決めていなかった」というケースでも、請求をあきらめる必要はありません。
契約書の代わりになる証拠
相手が支払いを拒む理由は、たいてい「そんな工事は頼んでいない」「その金額では合意していない」「工事に不具合がある」のいずれかです。契約書がない場合は、次の資料を組み合わせて、契約の内容を立証します。
- 見積書と、それに対する相手の反応:見積書を送ったメールやLINEに「これでお願いします」「進めてください」と返信があれば、金額の合意の強い証拠になります
- 発注・指示のやりとり:工事の範囲や仕様、日程を指示するメッセージ、打合せのメモ、図面や仕様書
- 工事の実施を示す資料:施工前・施工中・完成後の現場写真(日付入り)、作業日報、材料の納品書・請求書、職人への支払記録
- 相手の支払い・承認:着手金や一部の支払い、完成後の引渡しの確認、「来月払います」といった支払いの約束
特に一部の支払いがある場合は、相手が契約の存在を認めていたことを示すだけでなく、時効の更新(債務の承認)にもなります。LINEのやりとりは、端末の故障やアカウントの削除に備えて、スクリーンショットと日付が分かる形で早めに保存しておきましょう。
揉めやすい3つの論点と対処法
① 追加工事の代金
当初の工事は払ってもらえたのに、追加工事の分だけ「頼んでいない」「サービスだと思った」と言われるのが典型です。追加の指示を受けたLINEや現場での会話のメモ、追加分の材料の納品書で、相手の指示があったことを示します。今後は、口頭で追加を頼まれたら、その日のうちに「○○の追加、概算○万円で進めます」とメッセージを送っておくだけで、立証は格段に楽になります。
② 途中で打ち切られた工事
工事の途中で相手から中止を求められた場合でも、すでに終えた部分が相手の利益になっていれば、その割合に応じて報酬を請求できます(民法634条)。どこまで工事が進んでいたかを示す写真や日報が、出来高の計算の根拠になります。
③ 「不具合があるから払わない」という反論
不具合の主張があっても、工事が完成していれば代金の支払い義務は発生しています。相手が主張できるのは、修補の請求や、修補に代わる損害賠償との相殺です。指摘された不具合を写真で確認し、軽微であれば修補に応じたうえで残額を請求する、重大な主張であれば専門家の意見を取る、と切り分けて対応します。

回収の進め方
- 請求書を改めて送る:工事の内容、金額の内訳、支払期限を明記し、根拠となる見積書やLINEの写しを添える
- 内容証明郵便で督促する:支払期限を区切り、応じなければ法的手続きに移ることを伝える。時効の完成猶予(6か月)にもなります
- 相手の財産を押さえる:相手が財産を処分しそうなときは、訴訟の前に仮差押えを検討します(「仮差押え・仮処分とは」参照)
- 法的手続き:金額に争いがなければ支払督促、60万円以下なら少額訴訟(「少額訴訟は使える?」参照)、工事の範囲や金額に争いがあれば通常訴訟を選びます
工事代金の消滅時効は、支払期日から5年です(民法166条1項1号)。2020年3月以前の契約で旧法の3年の短期消滅時効が適用されるものもあるため、古い未払いほど早めの確認が必要です。元請から下請代金が払われない場合は、建設業法の支払期日の規制(24条の3・24条の6)に違反していないかも確認し、国土交通省の相談窓口への申告を交渉材料にすることもできます。
よくある質問
Q. 施主が個人で「お金がない」と言っている場合は?
分割払いの合意を書面にし、可能であれば強制執行認諾文言付きの公正証書にしておくと、支払いが止まったときに裁判なしで差押えができます。支払いの約束は債務の承認として時効の更新にもなります。
Q. 元請が倒産して下請代金が払われない場合は?
元請が破産すれば、下請代金は破産債権として配当を待つことになり、回収は大きく目減りします。元請の信用不安が見えた段階で、工事の中止、出来高の確定、仮差押えを検討することが重要です(「取引先が破産したら売掛金はどうなる?」参照)。
Q. 弁護士費用を相手に請求できますか?
代金の支払いを求める請求では、弁護士費用は原則として自己負担です。契約書がない場合は弁護士費用の負担を定めた条項もないため、回収見込み額と費用のバランスを最初に確認しておくことが大切です。
Q. 工事に使った材料を引き揚げてもいいですか?
引渡し済みの建物に取り付けた材料を無断で撤去すると、逆に損害賠償を請求されるおそれがあります。自力で取り戻すのではなく、法的手続きで代金を回収してください。
まとめ
契約書がなくても請負契約は成立しており、工事代金は請求できます。回収の成否を分けるのは、見積書とそれへの相手の返信、指示のLINE、現場写真、材料の納品書といった「契約書の代わり」をどれだけそろえられるかです。追加工事や途中解約、不具合の主張といった典型的な反論にも、記録があれば対応できます。未払いが続いたら内容証明で期限を区切り、財産の処分が心配なら早めに仮差押えを検討してください。
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