近年、不動産取引において「購入が就職条件のように勧められた」ケースが裁判で争われました。本件は、就職活動中の個人がマンション購入を強く勧誘され、結果として売買契約を締結した後に消費者契約法に基づく取消しを主張した事例です。

(東京地裁令和4年1月17日判決)

事案の概要

買主Xは28歳の会社員として転職活動中、職業紹介会社A社からB社コンサル会社を紹介され面談します。そこでB社社員から就職に不安を抱かせる発言があり、A社社員からは「家を購入してでも入社意欲を示すべき」と助言されました。Xは3社の関係者と面談した後、「購入しなければ採用されない」と信じ込み、C社が紹介するマンションの売買契約を締結します。契約金額は約3,000万円でした。公正証書も作成され、その中でXは「契約内容に異議はない」との合意も記載されました。

しかしXは後に「就職の不安をあおられた」として消費者契約法に基づく契約取消しと、売買代金の不当利得返還を求めて裁判を提起しました。


裁判所の判断(要旨)

裁判所は以下の点を認定しました。

困惑による意思表示の影響

不動産の購入を就職条件のように勧誘する行為自体が極めて不自然であり、Xに就職への不安を抱かせることで、買主の判断が著しく影響されたと評価しました。消費者契約法第4条3項5号(困惑による意思表示)に該当すると判断され、契約取消しが認められました。

売主の関与について

裁判所は、C社とA/B社がXを勧誘・誘導する中でY(売主)も契約に関与していた可能性を指摘し、単なる紹介とは評価しませんでした。鑑定評価書等から本件マンションの適正価格を大きく上回る価格での契約になっている点も重視されています。

取消しと返還の扱い

裁判所はXの取消し請求を認め、売主Yに対して約2,924万円の返還を命じました。この金額は売買代金から適正価格等を勘案したものです。


この事例が示す実務上のポイント

本件は不動産取引では比較的珍しい、就職勧誘と物件購入の結びつきにより消費者契約法が適用された事例です。実務にあたって、次の点に注意が必要です。

勧誘方法と取引背景を慎重に確認する

通常の物件紹介とは異なり、生活上の不安・心理状態に介入するような勧誘が行われた場合、後日の取消しリスクが生じます。

契約前の意思確認は丁寧に

重大な購入意思を確認する際、就職や他の人生上の決断要素から強く誘導されたかどうかの評価は裁判で重要な証拠となります。

公正証書や書面があれば安心とは限らない

本件では公正証書が作成されていたにも関わらず、消費者契約法によって取消しが認められました。形式的な同意があっても、困惑があれば取消し権が行使され得ます。


まとめ

本判例は、消費者契約法の「困惑」による契約取消しが不動産取引にも適用されうることを示した重要な事例です。特に、購入動機を巡る心理的影響を与えるような勧誘は、単なる営業行為を超えて法的問題を生じさせる可能性があるため、関係者・業者双方が注意すべき点と言えます。

【監修】

米玉利大樹
米玉利大樹代表弁護士
年間数百件の法律相談を受け、年間100件以上の法律問題を解決しています。
「より良い解決」「迅速な解決」を大事にしており、個々の事案に適したスピーディな進行・解決を心がけています。
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