ホテルや旅館などの宿泊事業では、予約キャンセルに伴う損害を補填するためにキャンセル料を設定することがあります。しかし、キャンセル料の金額が高すぎたり、契約条項や説明が不十分であった場合、顧客とのトラブルや法的リスクに発展することがあります。
本コラムでは、弁護士の視点から、キャンセル料の法律上の制限、適切な設定方法、裁判例に基づく対応策を詳しく解説します。企業がトラブルを回避しつつ、経営を守るための実務上のポイントが分かります。
キャンセル料とは? 法律上のルールを確認
ホテルや旅館への宿泊を予約した顧客が都合によりキャンセルした場合、宿泊約款に基づき、事業者はその時期や条件に応じたキャンセル料を請求できます。
ただし、宿泊キャンセルによって事業者に生じる平均的な損害額を超える部分のキャンセル料(損害賠償の予定・違約金)は、消費者契約法第9条により無効となります。また、顧客からキャンセル料の金額について説明を求められた場合には、その算定根拠の概要を説明する必要があります。
ホテル・旅館のキャンセル料の実態とトラブル回避
ホテル・旅館の宿泊は顧客都合によるキャンセルが多く、高額なキャンセル料がトラブルの原因となりやすいことが調査で明らかになっています。
- 過去1年間に宿泊をキャンセルした経験がある顧客は30.6%
- 平均契約額:4万0704円
- 平均支払額:1万3956円
- 支払いに不満を持った割合:57.5%
トラブル回避のポイント
- 適正額のキャンセル料設定
- キャンセル条項の明確で分かりやすい説明
適切なキャンセルポリシーの作成方法
(1)条文例の参考
国土交通省のモデル宿泊約款を参考に、キャンセル料条項を設定します。
(2)適切な期間と料率の例
- 前々日まで:無料
- 前日:宿泊代金の20%
- 当日(連絡あり):宿泊代金の80%
- 当日(無断キャンセル):宿泊代金の100%
ただし、宿泊代金を超えるキャンセル料や代替客を受け付ける余裕がある場合の高額料率は、消費者契約法違反で無効となるリスクがあります。
キャンセル料未払いへの対処法
顧客がキャンセル料を支払わない場合、企業は以下の手段で請求可能です。
- 内容証明郵便の送付
- 支払督促の申立て(裁判所による督促・強制執行が可能)
- 訴訟の提起(判決確定後に強制執行が可能)
ホテルのキャンセル料に関する裁判例
(1)結婚披露宴のキャンセル料請求が認められなかった事例
- 名古屋地裁令和4年2月25日
- コロナ禍による緊急事態宣言下で結婚披露宴をキャンセル
- 取消料条項に基づく顧客の請求は棄却
- 申込料20万円は手付扱いでホテル側が受領
➡当時の状況において結婚披露宴を開催することは、新型コロナウイルスの感染拡大を招くおそれがあり現実的に不可能であると一般的に認識されていた。
(2)パッケージツアーのキャンセル料返還不要とされた事例①
- 東京地裁平成23年7月28日
- 航空券・宿泊付きツアーを顧客都合でキャンセル
- 手配会社は航空券代金の返還不要とし、裁判所も顧客請求を棄却
➡顧客都合でツアーをキャンセルしたために発生した取消料や違約金を、顧客のためにツアーの手配会社が負担しなければならない理由はない(発券後のキャンセルは代金100%が徴収されることとなっていた)。
(3)パッケージツアーのキャンセル料返還不要とされた事例②
- 東京地裁令和2年1月20日
- 台風接近による沖縄旅行キャンセル
- 実際には通常運航・営業が予定されていたため、裁判所は返還請求を棄却
➡顧客が搭乗予定であった往路航空便は通常運航が予定されており、宿泊予定だったホテルや使用予定だったレンタカー会社も通常営業が予定されていたこと、気象注意報や気象警報、沖縄県による台風の注意喚起もなかった。その上で、旅行の移動手段や宿泊先について、現実的な支障は見込まれていなかった。
まとめ
ホテルや旅館では、顧客とのキャンセル料トラブルが発生しやすいため、以下の対応が重要です。
- キャンセル料は平均的損害を超えない範囲で設定
- 条項や説明を明確・分かりやすく記載
- 顧問弁護士と連携して、トラブル時の法的対応策を準備
弁護士の視点から事前に対策を講じることで、キャンセル料トラブルのリスクを大幅に減らすことができます。
【監修】

- 代表弁護士
-  年間数百件の法律相談を受け、年間100件以上の法律問題を解決しています。
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