通勤途中にコンビニに立ち寄る――多くの労働者にとって日常の光景です。
しかし、その立寄り中に転倒などの事故が発生した場合、それは「通勤災害」として労災保険の対象になるのでしょうか。
今回は、国・王子労基署長事件(東京地裁令和6年6月27日判決)をもとに、
「通勤経路の逸脱・中断」と通勤災害の関係をわかりやすく解説します。
1.事件の概要
原告(労働者)は、出勤途中にコンビニエンスストアへ立ち寄り、店内で足を滑らせて転倒し、腰椎捻挫などの傷害を負いました。
この労働者は「出勤途上での事故である」として、労災保険による療養補償給付を請求しましたが、
王子労働基準監督署長は「通勤経路の逸脱または中断にあたる」として不支給処分を行いました。
これに対し労働者は、処分の取消しを求めて国を被告として提訴しました。
2.争点:通勤経路の「逸脱」または「中断」にあたるか
労働者災害補償保険法7条3項では、
「合理的な経路および方法による通勤の途中」で発生した事故が「通勤災害」として補償の対象となります。
ここで問題となるのが、
- 経路の「逸脱」:通勤途中に、就業または通勤と関係のない目的で合理的な経路を外れること
- 移動の「中断」:通勤経路上で、通勤と関係のない行為を行うこと
という区別です。
裁判所は、ある行為が逸脱や中断に当たるかは、
その行為の目的・態様・通勤との関連性を総合的に考慮し、
全体として「一連の通勤の範囲内」と評価できるかで判断すべきとしています。
3.裁判所の判断
東京地裁は、次のように判断しました。
- 労働者は少なくとも買い物目的でコンビニに立ち寄っていた。
- コンビニは通勤経路沿いにあるが、店内は店舗管理者の支配下にある私的空間であり、通勤経路とは区別される。
- 買い物目的の行為は、就業や通勤とは明らかに目的を異にする行為である。
したがって、コンビニへの立寄りは通勤経路の逸脱または移動の中断にあたると認定。
そのため、店内で転倒した事故は通勤遂行性を欠くとして、通勤災害には該当しないと判断しました。
結果として、労働者の療養補償給付不支給処分取消請求は棄却されています。
4.判決の意義と実務上のポイント
この判決は、「通勤途中の立寄り行為」であっても、その目的や場所によっては通勤災害として認められないことを明確に示しています。
たとえば以下のように整理できます。
| 行為の内容 | 判断の傾向 |
|---|---|
| トイレ利用・定期券購入など通勤に付随する行為 | 通勤災害と認められる可能性がある |
| コンビニ・カフェ・銀行などへの買い物・私用立寄り | 通勤の逸脱・中断と判断される傾向が強い |
つまり、通勤行為と直接関係があるかどうかが判断のカギとなります。
5.通勤災害に該当するか迷ったときは
出勤途中や退勤途中の事故であっても、行為の内容や経路の取り方によって補償の対象外となる場合があります。
通勤災害かどうかの判断は、細かな事実関係や目的によって左右されるため、
労災請求の段階で専門家に相談することが重要です。
6.まとめ
- コンビニへの立寄りなど、私的目的の行為は通勤経路の「逸脱」「中断」に該当する可能性が高い。
- 通勤災害と認められるには、通勤と直接関連する合理的な行為であることが必要。
- 事故発生時の行動や目的を丁寧に整理し、必要に応じて専門家に相談することが望ましい。
【監修】
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