判決を取った。支払督促も確定した。それなのに相手が払わない——。こうなると次は強制執行ですが、実際に動かそうとすると「押さえるものが見つからない」という壁に突き当たります。銀行口座が分からない、勤務先も不明。このとき残る選択肢のひとつが動産執行です。執行官が相手の自宅や事務所に赴き、その場にある物を差し押さえる手続きで、回収実務では最後の手段に近い位置づけになります。本コラムでは、動産執行で実際に何が起きるのか、どういう場面なら意味があり、どういう場面では空振りに終わるのかを、回収実務の観点から整理します。
動産執行とは——執行官が現地で物を押さえる手続き
動産執行は、債務名義(確定判決・仮執行宣言付判決・和解調書・執行証書など)を持つ債権者の申立てにより、執行官が債務者の占有する動産を差し押さえ、売却して代金を配当する手続きです(民事執行法122条以下)。
預金債権や給与債権を押さえる債権執行と違い、相手の財産情報を事前に特定しなくても申し立てられるのが最大の特徴です。債権執行では「どの銀行のどの支店か」まで特定しなければなりませんが、動産執行は「この住所にある動産」という形で申し立てられます。相手の生活・営業の本拠さえ分かっていれば着手できる、という点で入口が広いのです。
手続きの流れはおおむね次のとおりです。
- 債務名義に執行文を付与してもらい、送達証明を取得する
- 目的物の所在地を管轄する地方裁判所の執行官に申立て(予納金が必要)
- 執行官が日時を決めて現地へ臨場。債権者も立ち会えます
- 差押可能な動産があれば差押え、なければ「執行不能」として終了
- 差し押さえた動産を競り売り等で換価し、代金を配当
押さえられない物が法律で決まっている
動産執行を検討するうえで最初に知っておくべきは、差押えが禁止されている動産の範囲が広いことです(民事執行法131条)。主なものを挙げます。
- 債務者等の生活に欠くことができない衣服・寝具・家具・台所用具・畳・建具
- 1か月間の生活に必要な食料および燃料
- 標準的な世帯の2か月分の必要生計費として政令で定める額の金銭(66万円)
- 債務者の業務に欠くことができない器具等(主に自らの労力で職業に従事する者の場合)
- 仏像・位牌その他礼拝または祭祀に直接供するため欠くことができない物
つまり、一般家庭にある家財道具のほとんどは差押えの対象外です。現金も66万円までは手を付けられません。ここを理解しないまま「自宅に執行官が行けば何か押さえられるだろう」と期待すると、結果に落胆することになります。
それでも動産執行が有効な3つの場面
では意味がないのかというと、そうではありません。次のような場面では、動産執行は現実的な回収手段になります。
①相手が事業者で、事務所や店舗に資産がある
法人や個人事業主の事務所・店舗には、業務用の機械、在庫商品、レジの現金、厨房設備などがあります。事業用資産は前述の差押禁止の範囲から外れることが多く、実際に換価できる物が見つかる可能性が個人宅より格段に高くなります。飲食店の売上金や小売店の在庫は、その典型です。
②現金を手元に置いているとみられる相手
差押禁止は66万円までなので、それを超える現金が保管されていれば超過部分を押さえられます。口座を使わず現金で取引している相手や、差押えを警戒して預金を引き出している相手には、むしろ動産執行のほうが届きます。
③支払いを促す圧力として機能させたい
実務上、無視できないのがこの効果です。執行官が予告のうえ自宅や事務所に臨場し、室内を確認するという事実そのものが、これまで連絡を絶っていた相手を動かすことがあります。実際、臨場の当日または直後に相手から連絡が入り、任意の支払いや分割の協議に転じる例は少なくありません。差押物が見つからなくても、交渉のテーブルに引き戻せれば目的は果たせます。
ただし、これを狙って濫用的に申し立てることは相当ではありません。あくまで正当な債権の回収手段として、他の方法との比較のうえで選ぶべきものです。
費用と「執行不能」のリスクをどう見るか
動産執行には執行官への予納金が必要で、差押物が見つからず執行不能に終わっても、使われた分は戻りません。つまり空振りのコストを織り込んだうえで判断する手続きです。
判断の順序としては、次のように考えるのが合理的です。
- まず財産開示手続や第三者からの情報取得手続で、預金口座・勤務先・不動産を特定できないか試す
- 口座や給与が特定できるなら、回収効率の高い債権執行を優先する
- それらが空振りで、かつ相手が事業者である/現金保有が疑われる場合に、動産執行を検討する
相手の口座や勤務先を調べる方法については、判決を取ったのに払われないときの情報取得手続で詳しく解説しています。動産執行はその先にある選択肢と位置づけると、判断を誤りません。
まとめ
動産執行は、財産を特定できなくても申し立てられる一方で、差押禁止の範囲が広く、個人宅では執行不能に終わることも多い手続きです。有効に機能するのは、相手が事業者で事業用資産がある場合、現金保有が見込まれる場合、そして支払いを促す契機として使う場合に絞られます。債務名義を取ったのに回収できずに止まっている案件は、どの執行方法を選ぶかで結果が変わります。回収の見込みと費用のバランスを含めて、弁護士法人横浜キャピタル法律事務所にご相談ください。
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