「借用書はある。それなのに返してもらえない」——この状態は、法的には非常に有利です。借用書は貸したという事実そのものを証明する強力な証拠であり、回収手段を具体的に選べる段階にあるからです。問題は、どの手続をどの順番で使うかを知らないまま時間が過ぎ、時効が迫ってしまうことにあります。本コラムでは、借用書がある場合に貸したお金を取り返す5つのステップと、途中でつまずきやすい点を弁護士が解説します。


借用書があると回収はどれだけ有利になるか

貸金返還請求では、貸主の側が「お金を渡した事実」と「返す約束があった事実」の両方を証明しなければなりません。借用書はこの2つを一枚で満たします。

借用書がない場合、振込履歴やメッセージのやり取りを積み上げて立証することになり、相手から「もらったものだ」「立て替えてもらっただけだ」と反論されると争いが長引きます。借用書があれば、この入口の争いをほぼ省略できます。相手が「そんな書面は書いていない」と否認しても、筆跡や押印から真正性を立証できる場面が多く、実務上は貸主が優位に進められます。

借用書がない状況での回収方法については「貸したお金を取り返す方法【借用書なし】」で詳しく解説しています。

まず借用書の内容を確認する

記載されているべき項目

  • 貸主・借主の氏名と住所
  • 借入金額
  • 金銭を受け取った日付
  • 返済期限と返済方法
  • 利息・遅延損害金の定め(ある場合)
  • 借主の署名または記名と押印

不備があっても無効とは限らない

返済期限が書かれていない、押印がない、金額が漢数字でないといった不備があっても、借用書が直ちに無効になるわけではありません。返済期限の定めがない場合は、貸主が相当の期間を定めて返還を求めれば、その期間の経過によって返済義務が生じます(民法591条1項)。押印がなくても、署名があれば本人が作成したものと認められる余地は十分にあります。

また、収入印紙が貼られていなくても借用書の効力に影響はありません。印紙税法上の過怠税の問題が生じるだけで、証拠としての価値が失われることはない点は誤解されやすいので注意してください。

LINEやメールのやり取りも補強証拠になる

「返済が遅れてすみません」「来月には返します」といったメッセージは、借主が債務を認めた証拠になります。後述する時効との関係でも重要な意味を持つため、借用書があっても、やり取りは必ず保存しておいてください。

貸したお金を取り返す5つのステップ

ステップ1:期限を区切って催促する

まずは期限を明示して返済を求めます。この段階では口頭ではなく、記録が残る形(メール・LINE・書面)で行うことが重要です。深夜の電話や勤務先への連絡といった手段は、正当な権利行使であっても後にトラブルの原因となるため避けてください。

ステップ2:内容証明郵便を送る

任意の催促に応じない場合、配達証明付きの内容証明郵便で返還を請求します。「いつ・誰に・どんな内容を送ったか」が郵便局に記録されるため、後の裁判で催告の事実を証明できます。弁護士名で送ることで、法的手続に進む姿勢が伝わり、この段階で支払いに応じる相手も少なくありません。

ステップ3:裁判手続を選ぶ

応じない場合は裁判所の手続に進みます。借用書があると、次のいずれも選択しやすくなります。

  • 支払督促:簡易裁判所への申立てのみで進み、相手が2週間以内に異議を述べなければ、仮執行宣言を経て差押えが可能になります。相手が争ってこないと見込まれる場合に最も早い方法です
  • 少額訴訟:請求額60万円以下の場合に使え、原則として1回の期日で判決が出ます
  • 通常訴訟:金額が大きい場合や、相手が争ってくることが確実な場合に選びます

相手の住所が分からない場合でも手続を進める方法があります。詳しくは「支払督促は相手の住所がわからなくても使えるのか」をご覧ください。

ステップ4:債務名義を取得する

確定判決、仮執行宣言付支払督促、和解調書などを「債務名義」と呼びます。これが強制執行の前提です。裁判で勝っても、債務名義を得ただけでは相手の財産は動きません。

ステップ5:強制執行で回収する

債務名義をもとに、相手の財産を差し押さえます。実務で最も使われるのは預貯金と給与の差押えです。預貯金の差押えの具体的な流れ・効果の及ぶ範囲については「口座差し押さえの手続と効果」で解説しています。

時効に注意する

貸金の返還請求権には消滅時効があります。2020年4月1日以降に貸したお金は、返済期限が来たことを知った時から5年、または返済期限から10年のいずれか早い方で時効が完成します(民法166条1項)。それ以前に貸したものは原則10年です。

時効が迫っている場合でも、内容証明郵便による催告を行えば、そこから6か月間は時効の完成が猶予されます(民法150条1項)。この6か月の間に訴訟提起などの手続を取れば、時効を更新できます。逆に、催告を繰り返しても猶予は延長されないため、催告後は速やかに次の手続へ進む必要があります。

なお、相手が「返す」と認める発言をした場合は債務の承認にあたり、その時点から時効が新たに進行します。時効の詳細は「貸金の消滅時効」をご確認ください。

相手の財産が分からない場合

差し押さえるには、原則として財産の所在を特定する必要があります。分からない場合は、債務名義を得たうえで次の手続が使えます。

  • 財産開示手続:債務者を裁判所に呼び出し、財産を陳述させる手続です。2020年の改正で実効性が強化され、正当な理由なく出頭しない、または虚偽の陳述をした場合には6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されます(民事執行法213条)
  • 第三者からの情報取得手続:金融機関から預貯金口座の情報を、市町村や年金機構から勤務先の情報を、登記所から不動産の情報を取得できます

この2つが整備されたことで、「相手の財産が分からないから回収できない」という状況はかなり改善されています。

借用書があっても回収が難しいケース

  • 時効が完成している:相手が時効を援用すると請求できなくなります
  • 相手に資力がない:差し押さえる財産が実際に存在しなければ、判決を得ても回収できません
  • 相手が自己破産した:免責が確定すると、原則として請求できなくなります
  • 相手の所在も財産も一切不明:手続は進められますが、回収可能性の見極めが必要です

費用倒れを避けるためにも、手続に入る前に回収可能性を検討することが重要です。

よくある質問

借用書のコピーしか手元にありません。使えますか。

証拠として使えます。ただし相手が原本の存在や内容を争った場合、コピーだけでは立証が難しくなることがあります。振込履歴やメッセージなど、他の証拠もあわせて確保してください。

利息の定めがない場合、利息は請求できませんか。

個人間の貸借では、特約がなければ利息は発生しません。ただし返済期限を過ぎた後は、遅延損害金を請求できます。定めがない場合は法定利率(現在は年3%)によります。

相手が「返す気はある」と言い続けて何年も経っています。

返済の意思を示す発言は債務の承認にあたり、時効が更新される可能性があります。ただし、口頭のやり取りだけでは後に証明できません。書面やメッセージで残すか、早めに手続を検討してください。

借用書に収入印紙が貼られていません。無効になりますか。

無効にはなりません。借用書(金銭消費貸借契約書)は印紙税の課税文書ですが、印紙を貼っていないことは税金の問題であって、貸し借りの合意そのものの効力には影響しません。

なお、印紙を貼るべきなのに貼らなかった場合、文書の作成者には本来の印紙税額の3倍(自分から申し出た場合は1.1倍)の過怠税がかかる可能性があります。記載金額が1万円未満の借用書は非課税です。

相手が「そんな借用書は書いていない」と言い出しました。

借用書に相手本人の署名または押印があれば、その借用書は本人の意思で作成されたものと推定されます(民事訴訟法228条4項)。相手がこれを覆すには、署名が偽造されたなどの事情を相手の側で示す必要があります。

相手が争ってきた場合に備えて、借用書の原本は折り曲げずに保管し、お金を渡したことを示す振込履歴や、借りたことを認めるメッセージもあわせて残しておくと安心です。

借用書があれば、裁判をせずにすぐ差し押さえできますか。

できません。差押え(強制執行)をするには、確定判決や支払督促などの「債務名義」が必要で、通常の借用書はこれにあたりません。借用書は、債務名義を得るための手続で強力な証拠になるという位置付けです。

例外として、公証役場で作成した公正証書に「支払わないときは強制執行を受けても異議はない」という文言(強制執行認諾文言)が入っていれば、裁判をせずに差押えに進めます。詳しくは執行証書(公正証書)による強制執行で解説しています。

まとめ

借用書があるということは、回収に向けた最も重要な材料がすでに手元にあるということです。あとは、催告から強制執行までの手順を、時効に間に合う形で進められるかどうかが分かれ目になります。

当事務所では債権回収を重点分野として取り扱っており、回収可能性の見極めから内容証明の送付、裁判手続、強制執行までを一貫して対応しています。返済が滞ったまま時間が経っている場合ほど時効のリスクが高まりますので、早い段階でご相談ください。

借用書がある場合でも、相手が支払わなければ回収の手続は必要です。実際のご依頼の流れと費用は個人間で貸したお金の回収をご覧ください。

実際に交渉で全額を回収した事案は、解決事例「知人への貸金が「返せない」の一点張りに。粘り強い交渉で全額回収」でご確認いただけます。

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