「裁判で勝訴判決を取ったのに、相手が一向に支払わない」「養育費の調停調書があるのに振り込まれなくなった」——強制執行をしようにも、相手がどこの銀行に口座を持っているか、どこで働いているかが分からなければ、差し押さえはできません。この「財産が見つからない」という債権回収最大の壁を打ち破るために、2020年4月施行の改正民事執行法で本格導入されたのが第三者からの情報取得手続です。本コラムでは、裁判所を通じて債務者の預貯金・不動産・勤務先を調べるこの制度の使い方と実務のポイントを、債権回収に力を入れる弁護士が解説します。
第三者からの情報取得手続とは——裁判所が銀行・市町村に照会してくれる制度
確定判決や公正証書などの債務名義を持つ債権者の申立てにより、裁判所が金融機関や公的機関(第三者)に対して、債務者の財産情報の提供を命じる制度です(民事執行法205条〜207条)。取得できる情報は3種類あります。
- 預貯金・上場株式等の情報:銀行・証券会社に照会し、支店名・口座の有無・残高が分かります。銀行単位で全支店を対象にできるため、支店名が不明でも構いません
- 不動産の情報:法務局に照会し、債務者名義の土地・建物の所在等が分かります
- 勤務先(給与債権)の情報:市町村や年金機構に照会し、債務者の勤務先が分かります。ただしこれを申し立てられるのは養育費等の債権者と、生命・身体の損害賠償の債権者に限られます
申し立てられる要件を一覧で確認
情報取得手続は、債務名義があれば誰でもすぐ使えるわけではありません。取得したい情報ごとに、申し立てられる債権者と前提条件が違います。
| 取得する情報 | 申し立てられる債権者 | 財産開示手続の先行 | 照会先 |
|---|---|---|---|
| 預貯金・上場株式等 | 債務名義を持つ金銭債権者(貸金・売掛金なども可) | 不要 | 銀行・信用金庫・証券会社など |
| 不動産 | 同上 | 必要(3年以内に実施) | 登記所(法務局) |
| 勤務先(給与) | 養育費・婚姻費用等の債権者、生命・身体の侵害による損害賠償の債権者のみ | 必要(3年以内に実施) | 市町村、日本年金機構・共済組合など |
このほか、どの情報でも共通して次の2点が求められます。
- 強制執行を始められる状態にあること:判決などの債務名義に執行文が付され、債務者に送達されていること(執行力のある債務名義の正本)
- 知れている財産だけでは回収しきれないこと:直近6か月以内の強制執行で全額を回収できなかった、または分かっている財産に強制執行しても全額には届かない見込みであることを、資料で示す必要があります
2つ目の要件は「相手の財産をまったく知らない」場合でも、分かっている範囲の財産状況を説明する形で満たせるのが通常です。申立書にどう書くかで手続きの進み方が変わるため、ここは弁護士に任せたほうが確実です。
使い方の実務——「財産開示手続」とセットで考える
注意すべきは手続きの順序です。不動産情報と勤務先情報の取得には、原則として先に「財産開示手続」を実施していること(前置)が必要です(預貯金情報には前置は不要です)。財産開示手続は、債務者本人を裁判所に呼び出して財産を陳述させる制度で、2020年改正で不出頭・虚偽陳述に6か月以下の拘禁刑(2025年6月の刑法改正で懲役から名称変更)または50万円以下の罰金という刑事罰が科されるようになり、実効性が大きく向上しました。実際に不出頭で刑事立件される例も出ています。
実務では、①まず預貯金情報の取得を申し立てて即座に口座を差し押さえる、②空振りに備えて財産開示手続を並行して申し立て、③開示結果を踏まえて不動産・給与の情報取得に進む——という組み合わせが定石です。債務者に知られる前に預金を押さえるスピード感が回収率を左右します(預貯金情報の取得は債務者への事前通知なしに進みます)。
相手の勤務先が分からないとき——貸金・売掛金の債権者が取れる3つのルート
給料の差押えは、相手が会社勤めなら毎月確実に回収できる強力な手段です。ところが上の表のとおり、情報取得手続で勤務先を照会できるのは養育費と人身被害の債権者だけで、貸したお金や売掛金の回収では使えません。この場合は、次のルートを組み合わせて勤務先を突き止めます。
ルート1:財産開示手続で本人に答えさせる
財産開示手続では、債務者は裁判所で自分の財産をすべて陳述しなければなりません。給料も財産(給与債権)に含まれるため、勤務先がどこかを答える義務があります。正当な理由なく出頭しない、嘘を述べるといった場合は刑事罰の対象になるため、以前より実際に答えさせやすくなりました。詳しい流れは「財産開示手続の解説」をご覧ください。
ルート2:口座の入出金履歴から給与の振込元をたどる
預貯金情報の取得や差押えで相手の口座が判明したら、その口座の取引履歴を弁護士会照会(弁護士法23条の2)で金融機関に求める方法があります。履歴に毎月決まった日の給与振込があれば、振込元の名義から勤務先が判明することがあります。回答に応じるかどうかは金融機関や事案によりますが、債務名義があると回答が得られやすい傾向にあります。口座の差押え自体の進め方は「口座差押えの解説」で解説しています。
ルート3:手元の情報を洗い直す
意外に多いのが、すでに手元に手がかりがあるケースです。お金を貸したときの名刺・LINEのプロフィールやトーク履歴・SNSの投稿・過去に相手から受けた振込の名義・共通の知人の話などから、勤務先が特定できることがあります。勤務先が分かれば、その会社を第三債務者として給料の差押えを申し立てられます。
費用はどのくらいかかる?
申立手数料は情報の種類ごとに1,000円で、これに加えて裁判所への予納金(照会先1社あたり数千円程度)と郵便切手代がかかります。たとえば銀行3行に預貯金照会をかけても、実費は1万円台に収まるのが通常で、費用対効果の高い制度といえます。どの銀行に照会をかけるかの選定(債務者の生活圏・取引履歴からの推測)が結果を分けるポイントであり、ここに債権回収のノウハウが凝縮されます。
よくある質問
Q. 債務名義がなくても使えますか?
使えません。まずは訴訟や支払督促で判決・仮執行宣言付支払督促などの債務名義を取得する必要があります。当事務所では債務名義の取得から情報取得・差押えまで一貫して対応します。
Q. 相手が引っ越して住所も分からない場合は?
住民票の職務上請求や弁護士会照会で住所調査から始めることができます。住所不明でも諦める必要はありません。
Q. 養育費の未払いにも使えますか?
使えます。むしろ養育費債権者は勤務先情報の取得まで認められた優遇された立場にあり、給与差押え(手取りの2分の1まで可能)と組み合わせることで、継続的な回収が実現できます。
Q. 公正証書があれば使えますか?
金銭の支払いについて「支払わないときは強制執行を受けても異議はない」という文言(執行受諾文言)が入った公正証書であれば、債務名義として使えます。判決を取り直す必要はありません。ただし勤務先の照会は、養育費などの公正証書に限られます。
Q. 相手が無職だと言っている場合は?
無職であっても、預貯金や不動産を持っていることはあります。まず預貯金情報の取得で口座を調べ、並行して財産開示手続で収入源を陳述させるのが基本です。本当に収入がない場合でも、その後に就職すれば給料を差し押さえられるため、債務名義は時効(判決なら10年)まで有効に保っておくことが大切です。
Q. 「銀行口座の開示請求」と情報取得手続は同じものですか?
違います。一般に「口座開示請求」と呼ばれるものの多くは弁護士会照会で、弁護士会を通じて金融機関に回答を求める手続きです。裁判所の命令ではないため回答は任意ですが、債務名義がなくても使える場面があります。情報取得手続は裁判所が金融機関に情報提供を命じる手続きで、債務名義が必要な代わりに確実に回答が得られます。
まとめ——「財産が分からないから泣き寝入り」の時代は終わった
2020年の民事執行法改正により、債務者の財産を裁判所経由で調べる制度は格段に使いやすくなりました。判決や公正証書を「紙切れ」で終わらせず現実の回収につなげるには、情報取得手続と差押えを迅速かつ的確に組み合わせることが不可欠です。横浜キャピタル法律事務所は債権回収を重点分野とし、財産調査から強制執行まで一括してお引き受けしています。未回収の債権でお困りの方は、お早めにお問い合わせください。
情報取得手続で預金を特定し、実際に差押えまで進めた事案は、解決事例「判決が出ても取引先が支払わない。財産開示と情報取得手続で預金を差し押さえ回収」でご覧いただけます。
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