ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下、USJ)を運営する合同会社ユー・エス・ジェイが自社のチケット販売規約に設けている「キャンセル不可条項」と「転売禁止条項」が、消費者契約法に違反するかどうかが争われた裁判で、2024年12月19日、大阪高等裁判所が判決を言い渡しました。

この裁判は、チケット購入者の権利保護と、エンターテインメント企業側の運営方針のバランスをどう図るかが問われた、今後のチケット販売規約の在り方にも影響する重要な訴訟です。本稿では、この裁判の概要と裁判所の判断、そして消費者側にとっての意味を解説します。

裁判の背景と争点

この訴訟は、消費者団体がUSJの「WEBチケットストア利用規約」のうち、以下の2つの条項が消費者契約法第10条に違反するとして、削除を求めて提起したものです。

  1. キャンセル不可条項
     購入後のキャンセルを理由のいかんを問わず一切認めない内容。
  2. 転売禁止条項
     営利目的かどうかを問わず、第三者へのチケット転売を全面的に禁止する内容。

一審・大阪地方裁判所に続き、控訴審・大阪高裁でも、消費者団体の請求はいずれも棄却されました。

キャンセル不可条項に対する判断

高裁は、まずこの条項が消費者契約法第10条に違反するかを検討しました。

  • 法10条前段(任意解約の権利を一方的に制限していないか)について
     チケット契約が、自由な解約を許すべき「典型的な役務提供契約」と異なり、USJとの契約には人的信頼関係がないため、民法651条(委任契約の任意解約)の類推はできないとされました。
  • 法10条後段(消費者に一方的に不利益を与える条項ではないか)について
     チケットが高額であることは認めつつも、キャンセルを認めるとUSJがサービス提供に必要な費用を回収できなくなるという経済的合理性から、条項は有効と判断されました。

ポイント解説
チケットという商品の特性や運営上の都合が重視され、契約後の「行けなくなった」事情による解約の道が狭められた判断です。

転売禁止条項に対する判断

この条項については、高裁は一審とは異なる判断を示しました。

  • 法10条前段について
     チケットの譲渡は「契約の地位の移転」ではなく「債権譲渡」と認定され、本来自由である債権譲渡を全面的に禁止することは消費者の権利制限にあたるとして、法10条前段該当性が認められました。
  • 法10条後段について
     一方で、USJ側が転売の動機や価格を確認する手段を持たないこと、また高額転売を防止することにより消費者に対し定価でチケットを購入する機会を確保する効果があるとして、消費者に不当な不利益を与えているとは言えないとし、後段該当性は否定されました。

ポイント解説
「債権譲渡の自由」への制約という論点に踏み込んだ意義ある判断である一方、「転売禁止」による利便性損失や代替手段(例:公式リセール機能)の有無が軽視された点は今後の議論の余地を残します。

おわりに

今回の高裁判決は、消費者契約法10条の運用に関する重要な判断を示しました。
特にエンターテインメント業界におけるチケット販売規約の妥当性に大きな影響を与える可能性があり、消費者がどこまで自己都合によるキャンセルや譲渡を認められるかという点で、今後の判例の動向が注目されます。

【監修】

米玉利大樹
米玉利大樹代表弁護士
年間数百件の法律相談を受け、年間100件以上の法律問題を解決しています。
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