「100万円を月5万円ずつ返す約束だったのに、2か月続けて支払いが止まった。残りを一括で請求できないのか」——分割払いの債権回収で必ず問題になるのが期限の利益です。期限の利益とは、「支払期限が来るまでは支払わなくてよい」という債務者側の利益のこと。これがある限り、債権者は約束の期日が来た分しか請求できません。しかし、契約に期限の利益喪失条項を入れておけば、滞納などをきっかけに残額全額を直ちに請求できるようになります。本コラムでは、債権回収の場面を想定して、期限の利益の仕組みと喪失条項の正しい使い方を弁護士が解説します。

期限の利益とは——「期限まで払わなくてよい」という債務者の利益

民法136条1項は、期限は債務者の利益のために定めたものと推定すると規定しています。「来月末に返す」という約束があれば、債権者はそれより前に請求できないのが原則です。分割払いの合意はまさにこの期限の利益を債務者に与えるもので、10回払いなら10個の期限が設定されていることになります。だからこそ、1回分の滞納があっても、特約がなければ残りの回の分まで一括請求することはできないのです。

法律上当然に期限の利益が失われる場合(民法137条)

特約がなくても、次の場合には債務者は期限の利益を主張できなくなります。

  • 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき
  • 債務者が担保を滅失・損傷・減少させたとき
  • 債務者が担保提供義務を履行しないとき

ただし、この法定事由は範囲が狭く、「支払いを滞納した」というだけでは含まれません。実務で決定的に重要なのは、契約書に喪失条項を定めておくことです。

喪失条項の2つの型——「当然喪失」と「請求喪失」の違いが結果を分ける

期限の利益喪失条項には2つの型があり、効果が異なります。

  • 当然喪失型:「支払いを1回でも怠ったときは、当然に期限の利益を失う」——事由が発生した時点で自動的に全額の弁済期が到来します。債権者の通知は不要で、その時点から残額全体に遅延損害金が発生します
  • 請求喪失型:「支払いを怠り、債権者の請求があったときは期限の利益を失う」——債権者が請求(通知)して初めて全額の弁済期が到来します

この違いは消滅時効の起算点にも影響します。当然喪失型では喪失事由の発生時から残債務全額について時効が進行し始めるのに対し、請求喪失型では、判例上、債権者が実際に請求した時から全額の時効が進行するとされています(最高裁昭和42年6月23日判決)。つまり当然喪失型は「自動的に回収に着手できる」半面、放置すると時効も早く完成に向かうという両刃の剣です。回収管理の体制に合わせた条項選択が必要です。

実務での使い方——2回滞納・一括請求・遅延損害金のシナリオ

冒頭の例で、合意書に「分割金の支払いを2回以上怠ったときは当然に期限の利益を失い、残額に年14.6%の遅延損害金を付して直ちに支払う」という条項があれば、2回目の滞納の時点で残額90万円全額+遅延損害金を請求できます。内容証明郵便で一括請求の通知を送り、応じなければ訴訟・支払督促、勝訴後は預貯金や給与の差押えへ進むのが定石です。公正証書(執行認諾文言付き)で合意しておけば、訴訟を経ずに直ちに強制執行に着手することもできます。

なお、貸金業者やカード会社との取引では、ほぼ例外なく期限の利益喪失条項が入っています。債務者の立場で「一括請求通知」が届いた方は、放置すると差押えに進む可能性が高い一方、交渉により分割払いに戻せる(期限の利益の再付与)場合もあります。早期にご相談ください。

契約書に入れるべき喪失事由——滞納以外も忘れずに

実務では、分割金の滞納のほかに、①手形・小切手の不渡り、②差押え・仮差押え・競売の申立てを受けたとき、③破産・民事再生等の申立て、④廃業・解散、⑤所在不明——などを喪失事由として列挙するのが標準です。取引先の信用不安の兆候をとらえて速やかに全額請求・保全に動けるようにしておくことが、債権回収の成否を分けます。契約書・合意書のチェックは、締結前の段階で弁護士に依頼するのが最も費用対効果の高い債権保全策です。

まとめ

期限の利益は債務者を守る仕組みですが、喪失条項を適切に設計しておけば、滞納発生時に残額全額の回収へ直ちに動くことができます。当然喪失型と請求喪失型の使い分け、時効管理、公正証書の活用まで含めた設計が重要です。分割払いの滞納にお困りの債権者の方、一括請求を受けてしまった債務者の方、いずれも横浜キャピタル法律事務所へお早めにお問い合わせください。

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米玉利大樹
米玉利大樹代表弁護士
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