売掛金や貸金の返済を求めて内容証明を送ったものの、相手が支払わない。そこで「支払督促」を使って法的回収を図ろうとした矢先に、相手と突然連絡がつかなくなる……。

このような場面で「支払督促はできるのか?」「住所が分からない相手にどう対応すればいいのか?」と不安になる方も多いでしょう。

今回は、相手の住所が分からないケースでの支払督促の可否と、現住所の調査方法、そして住所がどうしても判明しないときの代替手段まで分かりやすく解説します。

そもそも支払督促とは?

支払督促とは、簡易裁判所の書記官が債権者(お金を貸した側)の申立てに基づいて、債務者(お金を借りた側)に支払いを命じる手続きです。

相手が支払督促に異議を出さなければ、強制執行に進むことができるという特徴があり、裁判よりも迅速・簡易な回収手段として多く利用されています。

ただし、支払督促を使うには「相手に督促状を確実に送達できる」ことが前提です。

相手の住所が分からず手続が止まっている方へ

弁護士は職務上請求による住所の調査から、支払督促・訴訟・差押えまで一貫して対応できます。住所が判明しない場合の進め方もご提案します。

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住所が分からないと、支払督促はできない

相手方の住所が不明な場合、残念ながら支払督促は利用できません。

通常の訴訟では、相手の所在が不明でも「公示送達」(裁判所のウェブサイトへの掲載と、裁判所の掲示場への掲示などで通知)という手段で進められることがありますが、支払督促では公示送達が認められていない(民事訴訟法382条ただし書)ため、相手の正確な住所が必要になります。

つまり、住所不明=支払督促不能というのが原則です。

例外的に「仮執行宣言付き支払督促」には公示送達が可能

ひとつ注意したいのは、相手に一度でも支払督促が届いたあとであれば、仮執行宣言付き支払督促については公示送達が可能になるという点です。

つまり、最初の督促が届いた後に相手が行方をくらましたとしても、次の手続き(仮執行)には進める場合があります。

支払督促ができないケースは他にもある

以下の場合も、支払督促を利用することはできません:

  • 金銭以外の請求(建物明渡し、登記手続など)
  • 相手が海外在住(日本国内で送達できないため)

このような場合は、通常の訴訟手続や他の回収方法を検討する必要があります。

なお、60万円以下の金銭請求で使える少額訴訟も、公示送達を利用できない点は支払督促と同じです。相手の住所が分からないまま少額訴訟を申し立てることはできず、公示送達が必要な事案は通常の訴訟手続に移行することになります(民事訴訟法373条3項3号)。

相手の住所を調べる方法

支払督促を行いたいなら、まずは相手の現在の住所を特定することが必須です。
以下のような方法で調査が可能です。

① 弁護士による「職務上請求」で住民票を調査

過去の住所や本籍地が分かっていれば、弁護士がその情報をもとに「職務上請求」を行い、戸籍の附票などから現住所を特定できる場合があります。
これは弁護士に認められた正式な手続きで、債権回収の実務で頻繁に用いられています。

特に有効なのが戸籍の附票です。本籍地の市区町村には、その戸籍が作られてから現在までの住所の履歴が記録されているため、何度転居を繰り返していても、本籍地さえ判明すれば現住所までたどり着けるケースが多くあります。

② 電話番号から「23条照会」を使う

相手の携帯や固定電話番号が分かっている場合、弁護士が弁護士会照会(23条照会)を通じて電話会社に住所照会をすることも可能です。
ただし、すでに解約されている番号の場合、取得できるのは解約時の住所
までで、最新の情報ではない点に注意が必要です。

③ 債権者自身で住民票を追跡する方法もある

あまり知られていませんが、住民票は本人以外でも「自己の権利を行使するために必要がある」場合には第三者として交付請求ができます(住民基本台帳法12条の3)。契約書や借用書など、債権があることを示す資料を添えて請求します。

相手の旧住所が分かっているなら、その市区町村で住民票の除票(転出先が記載されたもの)を請求し、転出先へ順にたどっていく方法が考えられます。ただし、請求理由の審査は市区町村ごとに厳格で、転居を繰り返している相手を一つずつ追跡するのは手間もかかるため、途中で行き詰まったら弁護士による職務上請求に切り替えるのが現実的です。

④ 実家や勤務先しか分からない場合

本人の住所は不明でも、実家の住所が分かっていれば、戸籍・戸籍の附票の調査の糸口になることがあります。また、勤務先が分かっている場合は、住所調査と並行して、後述する給与差押えなど「住所が分からなくても打てる手」を検討する価値があります。

支払督促以外の回収手段も含めた全体の進め方と費用の目安は、個人間で貸したお金の回収のページにまとめています。

相手の住所が分からないまま進めた実際の事案は、解決事例「貸したお金を返さないまま相手が姿を消した。公示送達で判決を取り預金を差押え」でご覧いただけます。

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住所が特定できたらどうする?

相手の現住所が判明した場合、その住所を管轄する簡易裁判所に対して支払督促を申し立てることができます。

なお、すでに別の裁判所に申し立てていた場合は、いったん取り下げてから、再度正しい裁判所に申し立て直す必要があります。

どうしても住所が分からないときは「公示送達」で訴訟を起こす

調査を尽くしても現住所が判明しない場合、支払督促はあきらめざるを得ませんが、回収の道が閉ざされるわけではありません。通常の訴訟であれば、「公示送達」(民事訴訟法110条)を利用して手続きを進めることができます。

公示送達とは、裁判所のウェブサイトへの掲載と、裁判所の掲示場への掲示(または裁判所内の端末での閲覧)によって公示し、一定期間が経過すれば相手に送達されたものとみなす制度です。利用にあたっては、住民票や現地調査の報告書などによって「調査を尽くしても所在が分からない」ことを裁判所に示す必要があります。

注意点は、公示送達による訴訟では、相手が欠席しても「争わなかったから認めた」という扱い(擬制自白)にならないことです。契約書・借用書・振込記録などの証拠によって債権をきちんと立証する必要があるため、証拠の整理が重要になります。

住所不明のまま差押えはできる?──判決後の財産調査

「住所が分からない相手の財産を差し押さえられるのか」という質問もよく受けます。結論からいえば、公示送達による訴訟で判決(債務名義)さえ取得すれば、住所不明のままでも財産の差押えは可能です。

現在は民事執行法の「第三者からの情報取得手続」により、裁判所を通じて次のような照会ができます。

  • 預貯金口座──銀行・信用金庫などの金融機関に対する照会
  • 不動産──登記所に対する照会
  • 勤務先(給与)──市区町村や年金機構に対する照会(養育費や生命・身体の損害賠償の債権者に限られます)

口座の所在が分かれば預金の差押え、勤務先が分かれば給与の差押えへ進めます。手続きの詳細は「第三者からの情報取得手続の活用」の記事で解説しています。

また、調査や手続きに時間をかけている間に消滅時効(貸金などの債権は原則、支払期限から5年)が完成してしまっては元も子もありません。相手が行方不明のケースこそ、時効管理を意識して早めに動くことが大切です。

まとめ

相手の住所が分からず「支払督促ができない」となっても、調査次第で現住所を突き止めることは可能です。
とくに、弁護士であれば法的に認められた手段(職務上請求や弁護士会照会)で調査できますし、所在調査のノウハウも持ち合わせています。

それでも住所が判明しなければ、公示送達による訴訟で判決を取り、情報取得手続で財産を探して差し押さえる──という道も残されています。

債務者が行方不明になったからといって、泣き寝入りする必要はありません。

まずは弁護士に相談し、今できる最善の方法を一緒に検討してみましょう。

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