使用貸借でも合意内容が重要
住宅を無償で貸す「使用貸借」は、一般の賃貸借とは異なり、賃料が発生しない契約です。しかし、期間の定めや解約条件を巡ってトラブルになることがあります。本件は、祖母が孫夫婦に自宅建物を貸したあと、約束した期間を過ぎても退去しないため、所有者が明渡しを求めた事例です。
(東京地裁令和5年2月15日判決)
事案の概要
- 原告Xは、居住していた所有建物を孫夫婦(被告Yら)に無償で貸すことを承諾し、平成29年3月〜4月頃から使用貸借を開始しました。
- 当初は契約書面を作成していませんでしたが、Xは「Y2(Y1の夫)が大学院を修了して勤務医に戻るまで」と期間を限定して貸すことで合意したと主張しました。
- 令和3年3月、Y2が大学院を卒業・勤務医に復帰したことから、Xは令和3年1月頃から明渡しを求めたものの、Yらは居住を継続しました。
- 本件では、双方の話し合いがまとまらず、Xが令和4年1月27日に明渡請求訴訟を提起しました。
裁判所の判断
■ 使用貸借契約期間の判断
裁判所は、XとYらの間に「Y2が大学院を卒業するまで」という期間合意があったと認定しました。この合意どおり、Y2が令和3年3月に卒業したため、使用貸借契約は期間満了によって終了したと判断されました。Yらの主張する「期間の定めはない」という主張は認められませんでした。
■ 明渡し請求権の発生
使用貸借契約が期間満了により終了した以上、建物を返還する義務が生じると裁判所は示しました。Yらの主張として、「高齢のXが出て行くことは困難」「Y1の子供が負担を負う」といった事情がありましたが、これらは権利行使の制約にはならないと判断されました。
■ 和解による退去
第一審判決を不服としてYらは控訴しましたが、令和5年9月初旬には退去で和解が成立しています。
この事例が教えるポイント
書面がなくても合意内容は契約成立の根拠になる
使用貸借は書面がなくても合意事実があれば契約として認められます。特に期間の合意は、終了時点を明確にするためにも重要です。
使用貸借は賃貸借とは異なる性質
使用貸借は無償であるため、貸主が比較的容易に終了・明渡請求を求められるという誤解がありますが、本件のように期間の合意がある場合はその合意どおりに終了します。
老親と親族間でも法的な整理が必要
親族間であっても契約内容の合意が明確でないと、後日の争いに発展するリスクがあります。特に使用貸借では期間・条件を明示しておくことが推奨されます。
まとめ
本件は、使用貸借に明確な書面がなくとも、当事者間の合意内容を丁寧に検討することで、建物の明渡しが認められた事例です。
民法では使用貸借について基本的なルールが定められており、合意が明確であれば契約終了後の明渡請求は正当として認められます。契約書面がなくとも、合意内容を争点にしないための合意形成の工夫が実務では重要です。
【監修】

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