相手が会社や自営業者の場合、預金口座を差し押さえても残高がほとんどないことがよくあります。入金されたそばから引き出されてしまうからです。そんなときに有効なのが、相手が自分の取引先に対して持っている売掛金の差押えです。取引先(第三債務者)から、相手を通さずに直接支払いを受けられます。本記事では、売掛金の差押えの仕組み、取引先の特定の仕方、申立てから取立てまでの流れ、差し押さえる前に知っておくべき注意点を、債権者の側から解説します。

売掛金の差押えとは

売掛金の差押えは、預金や給料の差押えと同じ「債権執行」の一種です(民事執行法143条以下)。裁判所が差押命令を出すと、取引先は相手に売掛金を支払うことを禁じられ、相手も取立てや譲渡ができなくなります。その後、債権者は取引先から直接支払いを受けられます。

預金の差押えと比べた強みは2つあります。

  • まとまった金額を押さえやすい:取引先からの入金前の段階で押さえるため、口座から引き出される前に確保できる
  • 相手への圧力が大きい:取引先に差押命令が届くため、相手は取引先の信用を失うことを恐れ、支払いや分割の交渉に応じることが多い

最大の関門は「取引先の特定」

差押えの申立てには、どの取引先に対する、どの取引の売掛金かを特定する必要があります。銀行預金と違い、第三者からの情報取得手続では売掛金の情報は得られないため、債権者が自分で調べることになります。手がかりになるのは次のような情報です。

  • 相手との取引で見聞きした元請・発注者・納品先の名前
  • 相手の会社のウェブサイトやSNSにある取引実績・導入事例・施工事例
  • 相手から受け取った請求書・納品書・名刺、現場の工事看板
  • 財産開示手続で相手本人に陳述させた取引先(「財産開示手続とは」参照)

継続的な取引であれば、「差押命令の送達時に存在する売掛金と、その後一定期間内に発生する売掛金」のように、将来の分まで含めて差し押さえる方法もあります。ただし、取引の種類や期間が特定できないと申立ては認められないため、どの程度具体的に書けるかが実務上のポイントです。

差押えの対象になるのは、商品の売買代金に限りません。請負代金、業務委託報酬、テナントからの賃料、診療報酬、クレジットカード会社からの売上の入金なども、相手が第三者に対して持つ金銭債権であれば同じ手続きで差し押さえられます。相手の業種から「誰からお金が入ってくる商売か」を考えると、差押え先の候補が見つけやすくなります。

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申立てから取立てまでの流れ

  1. 債務名義をそろえる:確定判決、仮執行宣言付支払督促、執行証書など。執行文と送達証明書も用意します(「強制執行で本当に回収できる?」参照)
  2. 差押命令の申立て:相手(債務者)の住所地を管轄する地方裁判所に申し立てます。申立手数料は4,000円(債権者・債務者各1名、請求債権1個の場合)と郵便切手代です
  3. 第三債務者への陳述催告:申立てと同時に、取引先に「売掛金があるか、いくらか、支払う意思があるか」を回答させるよう求めます(民事執行法147条)。差押えが空振りかどうかは、この回答で分かります
  4. 取立て:相手に差押命令が送達されてから1週間が過ぎると、債権者は取引先から直接取り立てられます(同法155条1項)

取引先が「支払う」と回答しながら支払わない場合は、取引先を被告として取立訴訟を起こすことになります。取引先が供託した場合は、裁判所の配当手続で受け取ります。

差し押さえる前に知っておくべき注意点

  • 取引先から相殺を主張されることがある:取引先が差押え前から相手に対して債権(貸付金や違約金など)を持っていれば、相殺して「売掛金は残っていない」と主張できる場合があります(民法511条)
  • 売掛金が譲渡・担保に入っていることがある:ファクタリングや債権譲渡担保で、売掛金がすでに第三者のものになっていれば差し押さえられません
  • 相手の事業が止まると回収源も消える:取引を打ち切られて相手が廃業すれば、以後の回収は難しくなります。差押えの圧力を使って分割払いの合意に持ち込む、という着地点も考えておきます
  • 判決前なら仮差押え:債務名義を取る前でも、相手が売掛金を回収して使ってしまうおそれがあれば、仮差押えで先に押さえることができます(「仮差押え・仮処分とは」参照)

よくある質問

Q. 取引先が「売掛金はない」と回答してきたら?

陳述催告の回答は、差押えの空振りを判断する重要な材料です。取引が続いている様子があるのに「ない」と回答された場合は、支払時期や締め日を確認し、時期をずらして改めて申し立てることを検討します。取引先が故意に虚偽の陳述をして債権者に損害を与えた場合は、損害賠償を請求できることもあります(民事執行法147条2項)。

Q. 差押えできる金額に上限はありますか?

給料と違い、売掛金には差押禁止の範囲がないため、請求額と執行費用に達するまで全額を差し押さえられます。売掛金が請求額を上回る場合は、その超過部分は相手に支払われます。

Q. 取引先に迷惑をかけることになりませんか?

取引先は、差押命令に従って債権者に支払えば二重払いの責任を負わないため、法的な不利益はありません。とはいえ事務の負担はかかるため、相手が取引先との関係を守ろうとして任意の支払いに応じることが多く、それ自体が回収の近道になります。

Q. 相手の取引先がまったく分からない場合は?

財産開示手続で相手本人に取引先を陳述させる方法があります。正当な理由なく出頭しない、または嘘の陳述をした場合は刑事罰の対象になるため、以前より実効性が高まっています。並行して、預金の差押えや情報取得手続による口座の特定も進めると、空振りのリスクを分散できます。

まとめ

相手が会社や自営業者で、預金を差し押さえても残高がない場合は、相手の取引先に対する売掛金の差押えが有力な手段です。取引先から直接回収でき、相手への圧力にもなります。成否を分けるのは取引先の特定で、過去の取引資料、ウェブサイトの実績、財産開示手続などから手がかりを集めます。陳述催告で売掛金の有無を確かめ、相殺や債権譲渡のリスクも踏まえたうえで、差押えから取立て、場合によっては分割払いの合意までを見据えて進めることが大切です。

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