借用書がなくても、貸したお金は取り返せます
「借用書を作らなかった自分が悪い」「もう諦めるしかないのかな」——そう感じている方は多いです。しかし、借用書がなくても貸したお金を取り返すことは十分可能です。
金銭の貸し借りは「金銭消費貸借契約」と呼ばれ、原則としてお金を渡した時点で成立します(民法587条)。借用書という紙そのものが契約の成立要件ではありません。大切なのは「貸したという事実を証明できる証拠があるかどうか」です。
LINEのやり取り、銀行の振込履歴、相手の発言の録音——身近なものが証拠になるケースがほとんどです。まずは落ち着いて、この記事を読みながら手元の証拠を整理してみてください。
結論:借用書がなくても、貸したお金は取り返せます
結論を先に述べます。借用書という書面がなくても、次の条件を満たせば回収は可能です。
- 「貸した」事実を裏付ける証拠がある(LINE・振込履歴など)
- 「返す約束があった」ことが示せる(贈与ではないと主張できる)
- 消滅時効(原則5年)が完成していない
本記事では、証拠の集め方、後から作れる「確認書」、相手との関係別の対処法、内容証明・支払督促・少額訴訟・強制執行までの手順を順に解説します。
1. 借用書がない場合に証拠として使えるもの
借用書がなくても、以下のものは「貸した事実」を証明する有力な証拠になります。
LINE・メールのやり取り
最も一般的で強力な証拠です。「〇万円貸してほしい」「ありがとう、来月必ず返す」といったやり取りがあれば、貸借関係を示す証拠として十分機能します。スクリーンショットだけでなくトーク履歴のバックアップを取っておきましょう。相手にブロックされてもデータが残ります。
銀行の振込履歴
銀行振込でお金を渡した場合、振込記録が客観的な証拠として残ります。通帳のコピーやネットバンキングの明細を保存してください。「なぜその金額を振り込んだのか」を説明できる他の証拠(LINEなど)と組み合わせると立証力が格段に上がります。
会話の録音
「いつ返してくれるの?」という会話を録音し、相手が「もう少し待って」「必ず返す」と答えている場合、借金の存在を認めた証拠(債務承認)になります。自分が参加している会話であれば、相手の同意なく録音しても違法にはなりません。
第三者の証言
お金を貸す場面に同席していた人、貸した事実を相手から直接聞いた人の証言も証拠になります。友人や家族が「〇〇が〇〇さんにお金を借りたと言っていた」と証言できる場合、裁判で補強証拠として機能します。
2. 借用書の代わりになる「確認書」を今から作る方法
まだ相手と連絡が取れる状況であれば、今からでも書面を作ることができます。これを「債務確認書」または「返済確認書」と呼びます。以下の文例をLINEやメールで送り、相手から「わかった」「そうです」などの返信をもらうだけでも、法的な証拠として機能します。
【確認書の文例】
〇〇(相手の氏名)は、〇〇(あなたの氏名)に対し、令和〇年〇月〇日に金〇〇万円を借用したことを確認します。
返済期日:令和〇年〇月〇日
返済方法:〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇〇
令和〇年〇月〇日 氏名:〇〇(署名)
相手が署名を拒否する場合でも、この文章をLINEで送って「これで合ってる?」と聞き、「うん」「そうだよ」という返信をもらうだけで証拠になります。
3. 関係別の対処法
友人・知人の場合
まずは穏やかに返済を求めることから始めます。「先日貸したお金なんだけど、そろそろ返してもらえると助かる」という形で、記録に残る方法(LINE・メール)で連絡しましょう。口頭で話し合う場合も、事前に録音の準備をしておくと安心です。話し合いがまとまったら、返済期日と金額を書面(LINEでも可)で確認してください。
彼氏・彼女・元交際相手の場合
交際中・交際後を問わず、貸したお金は返済を求める権利があります。「別れたから返さなくていい」「プレゼントだと思っていた」と言われるケースは多いですが、貸したことを証明できる証拠があれば対抗できます。連絡を無視されている場合は、内容証明郵便(後述)の送付が有効です。
家族・兄弟の場合
家族間のお金の貸し借りは最もデリケートです。「家族なのに訴えるのか」という感情的な反発が起きやすいですが、法的には他のケースと同じです。家族関係を壊したくない場合は、弁護士を間に立てることで感情的な衝突を避けながら解決できることがあります。
4. 警察に相談できるケースとできないケース
「返してくれないなら警察に行く」と考える方は多いですが、単純な貸し借りトラブルは警察では解決できません。
警察が動かないケース(民事):借りたお金を返さない、返済の約束を守らない、連絡を無視している。これらは「民事トラブル」であり、警察に相談しても「民事不介入」として断られます。
警察が動く可能性があるケース(刑事):最初から返すつもりがなく嘘をついて騙し取った場合(詐欺罪)、脅して返済を迫ったり恐怖を与えた場合(恐喝罪)。ただし詐欺罪の立証ハードルは高く、「返すと言ったのに返さない」だけでは詐欺にはなりません。
※ 関連記事:貸したお金が返ってこない・音信不通|警察は動く?詐欺罪と回収手順を弁護士解説
5. 内容証明郵便の使い方と文例
内容証明郵便とは、「いつ・誰が・誰に・どんな内容の手紙を送ったか」を郵便局が証明してくれる郵便です。法的な手続きの第一歩として非常に有効で、相手に「本気で回収する意思がある」と伝えると同時に、時効の完成を6か月間猶予する効果(民法150条)もあります。
【内容証明の文例】
通 知 書
私は、令和〇年〇月〇日、あなたに対して金〇〇万円を貸し付けました。返済期日は令和〇年〇月〇日と約束しておりましたが、現在に至るまで返済がなされておりません。
本書面到達後2週間以内に、下記口座へ全額をお振込みください。
振込先:〇〇銀行〇〇支店 普通預金 口座番号〇〇〇〇〇〇〇
上記期日までにご返済いただけない場合は、法的手続きを取ることをここに通知いたします。
令和〇年〇月〇日 〇〇県〇〇市〇〇町〇番地 氏名:〇〇 〇〇
内容証明郵便はコンビニのネットプリントや郵便局窓口から送れます。弁護士名で送ると相手へのプレッシャーがより大きくなり、それだけで返済に応じるケースも少なくありません。
6. お金を回収する4つの法的手段
内容証明や任意の交渉で返済されない場合、次の法的手段を検討します。金額や相手の状況によって適した手続きが異なります。
① 民事調停
簡易裁判所で、調停委員を交えた話し合いによって解決を図る手続です。関係を完全に壊したくないケースに向きます。合意ができれば「調停調書」が作成され、強制執行の根拠になります。
② 支払督促
簡易裁判所に申立てることで、相手に支払い命令を出してもらう手続です。書面審査のみで進み、相手から異議がなければ最短2か月程度で強制執行の根拠(仮執行宣言付支払督促)を得られます。手数料も訴訟の半額です。相手が反論する見込みが薄い案件に向きます。
③ 少額訴訟(60万円以下)
請求額が60万円以下の場合、簡易裁判所で原則1回の審理で判決を得られる特別な手続です。証拠と当事者の言い分が比較的シンプルなケースに向きます。ただし相手が「通常訴訟に移行したい」と言えば通常の裁判になります。
④ 通常の民事訴訟
請求額が大きい、相手が争ってくる可能性が高い、事実関係が複雑、というケースは通常訴訟になります。判決まで時間はかかりますが、最も確実に「債務名義」(強制執行の前提となる書類)を得られる手続です。
※ 相手の住所がわからない場合は、こちらの記事もご参照ください:支払督促を相手の住所がわからない場合に進める方法
7. 強制執行(差押え)で実際に回収する
判決や支払督促を得ても、相手が任意で払わない場合は、裁判所を通じて相手の財産を差し押さえます。これを強制執行といいます。差押えの対象として代表的なものは次のとおりです。
- 預金口座:銀行名と支店名がわかれば差押え可能。残高があればその範囲で回収できる
- 給与:勤務先がわかれば、給与の一部(原則4分の1)を継続的に差し押さえできる
- 不動産:相手名義の不動産があれば、競売にかける選択肢もある
勤務先・口座情報が不明な場合は、財産開示手続や第三者からの情報取得手続(民事執行法)で調査することもできます。実効性のある回収にたどり着くには、この強制執行までを見据えて手続を選ぶことが重要です。
※ 関連記事:預金口座の差押え手続きと注意点
8. 消滅時効に注意:原則5年で権利が消える
貸金返還請求権の消滅時効は、現行民法では原則として「権利を行使できることを知った時から5年」です(民法166条1項1号)。返済期日を過ぎてから5年間、何も手を打たずに放置すると、相手から時効を主張されて回収できなくなる可能性があります。
時効を止める方法としては、内容証明郵便による催告(6か月の完成猶予)、裁判上の請求(更新)、相手の「払います」という債務承認(更新)などがあります。「連絡がつかないから様子を見よう」と放置するのが、もっとも危険な対応です。
よくある質問(FAQ)
Q. 借用書を後から作っても効力はありますか?
あります。本記事で紹介した「債務確認書」がこれにあたります。相手が署名・押印するのが理想ですが、LINEで内容を確認して「そうです」と返信をもらうだけでも証拠になります。早めに作っておけば、後の請求が格段に楽になります。
Q. 相手が「もらった(贈与だ)」と言い張ったらどうなりますか?
相手が贈与を主張するケースは実際にあります。「返すから」「分割で返す」などと書かれた相手側のメッセージ、貸付当時に返済時期について話し合った記録、金額の大きさなどから、贈与ではなく貸付であったことを立証していきます。証拠の組み合わせ方は事案によって異なるため、早期に弁護士に相談するのが安全です。
Q. 連絡が取れない・住所がわからない場合は?
弁護士は弁護士会照会制度(弁護士法23条の2)を使って住民票や勤務先などの情報を取得できることがあります。携帯番号やSNSアカウントしか知らないケースでも、相手を特定して回収につなげられる可能性があります。
Q. 弁護士に依頼するメリットは?
主なメリットは次の4点です。①弁護士名義の内容証明だけで返済に応じるケースがある、②証拠の取捨選択・整理を任せられる、③訴訟や強制執行を代理人として最後まで担える、④相手と直接やり取りせずに済むため精神的負担が軽い。「証拠が十分かわからない」段階での相談もおすすめします。
Q. 少額(5〜10万円程度)でも弁護士に頼めますか?
少額の場合は弁護士費用との兼ね合いを慎重に判断する必要があります。本人で少額訴訟・支払督促を申し立てる方が合理的なケースもあります。判断に迷う場合は、まず相談で適切な手段を整理することをおすすめします。
まとめ:まず証拠の確認と保全を最優先に
借用書がなくても、適切な証拠と手順があればお金は取り返せます。今すぐやるべきことは次の3つです。
- LINEや振込履歴などの証拠をスクリーンショット+バックアップで保存する
- まだ連絡が取れるなら、返済の確認をLINEで文字に残す(債務承認)
- 金額が大きい・無視されている・時効が近い場合は、早めに弁護士に相談する
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