離婚後に取り決めた養育費が支払われなくなるケースは少なくありません。厚生労働省の調査では、養育費を「現在も受けている」母子世帯は約28%にとどまります。しかし、法的手段を使えば強制的に回収することが可能です。本記事では、未払い養育費を回収するための強制執行の手続きと流れを解説します。
養育費の強制執行とは
強制執行とは、裁判所を通じて相手の財産(給与・預貯金など)を差し押さえ、未払いの養育費を強制的に回収する法的手続きです。相手が任意に支払わない場合の最終的な回収手段となります。
【2026年4月施行】養育費に関する民法改正のポイント
2026年4月1日に施行された改正民法により、養育費の取り決めや回収に関するルールが大きく変わりました。未払い養育費の回収を考えるうえで重要な改正点を整理します。
① 法定養育費制度の創設
離婚時に養育費の取り決めをしていなかった場合でも、取り決めがされるまでの間、子どもと生活する親は、もう一方の親に対して一定額(子ども1人あたり月額2万円)を「法定養育費」として請求できるようになりました。養育費を取り決めないまま離婚したケースでも、子どもの生活を守るための最低限の養育費を確保できる制度です。
② 養育費債権への先取特権の付与
養育費(婚姻費用・法定養育費を含む)に「一般の先取特権」が認められました。これにより、調停調書や公正証書などの債務名義がなくても、養育費の金額を取り決めた書面があれば、その書面を用いて相手の財産の差押えを申し立てられるようになりました。また、先取特権により、養育費は他の債権に優先して回収できます。優先的に扱われる金額は、子ども1人あたり月額8万円が上限です。
③ 財産に関する情報取得手続の充実
相手の勤務先や預貯金口座などの財産情報を裁判所を通じて取得する手続も利用しやすくなり、養育費を回収しやすい環境が整えられています。
これらの改正により、養育費を回収するハードルは以前より下がっています。ただし、先取特権を活用する場合でも養育費の金額がわかる書面が必要となるため、離婚時に取り決めを書面化しておくことの重要性は変わりません。
強制執行に必要な「債務名義」
強制執行を行うには、養育費の支払義務を証明する公的な文書(「債務名義」)が必要です。
- 調停調書(家庭裁判所での調停で決まった場合)
- 審判書(裁判所が審判で決定した場合)
- 確定判決
- 強制執行認諾文言付き公正証書
注意すべきは、当事者間で作成しただけの離婚協議書や覚書では、そのまま強制執行はできないという点です。将来の不払いに備え、公正証書で取り決めを残しておくことが極めて重要です。
手続きの流れ
① 事前準備──相手の情報を把握する
強制執行の申立てには、相手の現住所と差し押さえる財産の特定が必要です。給与差押えなら勤務先の名称と所在地、預貯金差押えなら金融機関名と支店名を把握しておきます。
② 強制執行の申立て
相手の住所地を管轄する地方裁判所に、債務名義の正本、送達証明書、執行文などとともに申立書を提出します。
③ 差押命令の発令と送達
裁判所が申立てを認めると、相手方と第三債務者(勤務先や金融機関)に差押命令が送達されます。
④ 取立て
差押命令の送達から1週間が経過すると、直接第三債務者から養育費の支払いを受けることができます。
給与差押えが特に有効な理由
養育費の強制執行では、給与の差押えが最も効果的です。通常の債権では給与の4分の1までしか差押えできませんが、養育費の場合は手取額の2分の1まで差し押さえることができます。
さらに、養育費には将来分の差押えも認められており、一度の申立てで毎月の給与から継続的に支払いを受けることが可能です。
相手の住所や勤務先がわからない場合
相手が引越しして住所が不明な場合、弁護士であれば職務上請求により戸籍の附票や住民票から現住所を調査できます。
また、民事執行法の改正により「財産開示手続」や「第三者からの情報取得手続」が利用しやすくなりました。裁判所を通じて相手の勤務先や預貯金口座の情報を取得できる制度です。
まとめ
養育費の未払いは泣き寝入りする必要はありません。適切な債務名義があれば、強制執行により回収が可能です。公正証書を作成していなかった場合でも、調停を申し立てて債務名義を取得する方法があります。さらに、2026年4月の民法改正で創設された法定養育費制度や先取特権により、養育費を回収しやすい環境も整えられました。お困りの方は早めに弁護士へご相談ください。
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