近年、人気商品を巡る「転売トラブル」は珍しくありません。
今回紹介する裁判例は、インターネットショップの利用規約に定められた転売禁止条項と違約金が、どこまで有効に働くのかが争われたものです。
東京地方裁判所は、購入者に20万円の違約金を請求した事案を無効として棄却しました(東京地裁令和5年8月24日判決)。
その判断は、ネット通販に携わる事業者だけでなく、一般消費者にとっても重要な意味を持ちます。
1 事件の概要
17歳の購入者(Y)は、インターネットショップ(X)が販売する陶器製の人形を1万2100円で購入しました。
しかし約2週間後、その商品をメルカリで4万8400円で出品。落札したのは販売元のXでした。
ショップでは「転売禁止商品」に関する規約(転売禁止特約)を設け、違反した場合は
**「転売で得た売上または20万円のいずれか高い方」**を違約金として支払うとする条項がありました。
Xはこの条項に基づきYに違約金20万円を請求し、併せて詐欺を理由に不法行為・不当利得返還として約101万円を請求しました。
争点は次の3点です。
- 転売禁止特約が契約内容に含まれるか
- Yの未成年者取消が認められるか
- 違約金条項が民法548条の2第2項により無効か
2 裁判所の判断(すべてXの請求棄却)
(1) 転売禁止特約は契約内容に含まれる
商品ページや購入画面で転売禁止表示が繰り返し示され、購入手続き上も承諾が必要であったことから、特約は契約に組み込まれていると判断。
ネットショップの売買は「定型取引」(民法548条の2第1項)に該当し、利用規約の見落としがあっても契約内容になるとされました。
(2) 未成年者取消は不可
17歳であっても
・金額が高額とはいえない
・インターネット取引に慣れていた
ことなどから、処分を許された財産の範囲内の取引と評価。
よって未成年者取消(民法5条2項)は認められませんでした。
(3) 違約金20万円は「不意打ち」で無効
本件の最大のポイントです。
裁判所は違約金条項が民法548条の2第2項(定型約款における不当条項の無効)に該当すると判断しました。
理由は次のとおりです:
- 違約金条項は購入手続きの「終盤」で初めて表示され、目立たない
- 転売禁止=当然に違約金が発生するとは通常考えられない
- 違約金20万円は購入価格1万2100円を大きく超え、予測困難
→ 「合理的に予測しがたい不意打ち的条項」であり、契約内容にならない
その結果、違約金請求はすべて棄却されました。
3 この裁判例の意義
本件は、平成29年改正民法で新設された「定型約款」に関する規定(548条の2)」を具体的に適用した重要な事例です。
特に裁判所が、
- 契約内容は画面上どのように表示されるか
- 消費者がどこまで予測し得るか
を丁寧に検討し、高額な違約金条項を無効とした点が注目されます。
通販サイトやアプリなど、定型的に利用規約を提示する事業者にとって、
「どのように表示すれば約款内容が契約に組み込まれるか」
「どのような条項が不当として無効になるか」
を考えるうえで参考となる判決です。
【監修】
- 代表弁護士
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