不動産取引において、不動産仲介業者(媒介業者)は売主や買主との媒介契約に基づいて活動し、その対価として媒介報酬を受け取ります。しかし、売買契約が成立した後でも、媒介報酬の支払いをめぐってトラブルになることがあります。その代表例のひとつが、媒介業者が報酬を請求したところ、裁判で請求が認められなかった事案です。

このコラムでは、媒介報酬請求が信義則(信義誠実の原則)に反する行為と評価され、請求が退けられた裁判例を取り上げ、実務上の注意点をわかりやすく解説します。

(東京地裁令和3年11月29日判決)


事案の概要

売主Xと媒介業者Aとの間で媒介契約が成立しないまま、Aは物件の紹介・交渉・契約条件の検討などの媒介行為を行いました。その後、買主側媒介業者Cを通じて売買契約が成立しました。

Aはその後、媒介報酬として売主Xに対して約298万円の支払いを求めて訴訟を提起しましたが、裁判所はAの請求を棄却しました。これは、Aの請求が法的に正当でない(信義則に反すると評価された)として判断されたためです。


裁判所の判断のポイント

裁判所が媒介業者Aの報酬請求を退けた主な理由は次のとおりです。

① 媒介契約の成立有無

裁判所は、媒介契約が締結されたかどうかについて慎重に判断をしました。媒介契約書の作成がなく、報酬額も確定していなかったため、Aと売主Xとの間で媒介契約が成立していたと断定することが困難だと評価しました。

② 信義則に反する行為との評価

裁判所は、媒介業者Aの請求行為が信義則の原則に反するものと評価しました。信義則とは、民法が定める「契約関係者は互いに誠実に行動しなければならない」という原則であり、これに反すると権利行使が制限されることがあります。

本件では、契約内容や契約成立過程などから、Aの行った行為だけでは売主Xの利益や意向に沿った媒介行為ではなかったと判断され、請求は信義則上許されないとしたのです。


実務的なポイント

この裁判例から、不動産取引における媒介報酬請求で特に注意すべき点を整理します。

1. 媒介契約の成立要件を明確にする

媒介報酬請求権が発生するためには、媒介契約が成立していることが前提です。
媒介契約書を交わし、契約日・報酬額・媒介範囲を明確にしておくことが重要です。

媒介契約書の交付・署名がないと、契約の成立自体が争点になる可能性があります。


2. 契約成立の関与度・役割を記録する

媒介業者が行った媒介行為の内容や程度、契約成立に至るまでの関与度を、できるだけ詳細に書面で残すことが有効です。単に情報提供しただけではなく、交渉・価格調整・条件提示などの実際の媒介行為の証拠を蓄積しておきましょう。


3. 売主・買主双方の意向に沿う媒介かどうかを確認する

媒介行為が売主・買主双方の意向に適合するものであることを確認し、その記録を残すことが重要です。裁判例では、媒介業者の行為が売主の利益や意向に沿っていないと評価されたことが信義則違反の判断につながっています。


信義則が影響する場面

信義則(信義誠実の原則)とは、互いの信頼関係を前提として行動することを求める法の基本原則です。たとえ契約関係に明示的な違反がなくても、この原則に反すると裁判所が判断した場合、権利の行使が制限されることがあります。

今回の事例は、単に契約書の有無だけでなく、媒介業者としての姿勢や行動全体が信義則に照らして評価された点が重要なポイントです。


まとめ

媒介報酬の請求は、媒介契約の成立・媒介行為の内容・売主・買主双方の利益との関係など、複数の要素で評価されます。本件の裁判例は

  • 媒介契約が曖昧なまま報酬を請求したケース
  • 媒介行為が売主の利益に合致していないと評価されたケース
  • 信義則の原則を侵害したとされたケース

として、媒介報酬請求が認められなかった重要な事例です。

媒介業務に携わる実務者は、媒介契約の成立や媒介行為の記録、契約当事者との意思疎通を明確にしておくことが、後の紛争防止につながります。

【監修】

米玉利大樹
米玉利大樹代表弁護士
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