実家の解体工事を頼んだところ、着工後に「アスベストが見つかったので追加で150万円かかります」と言われた——。近年こうしたご相談が増えています。アスベスト(石綿)の調査・除去には法令上の厳しい手順が定められており、費用が上乗せされること自体は珍しくありません。しかし、すべての追加請求に応じる義務があるわけではありません。本稿では、支払義務が生じる場合と拒める場合の分かれ目を、契約の観点から整理します。
なぜ「工事が始まってから」追加請求が来るのか
建物の解体・改修工事では、着工前にアスベストの有無を調べる事前調査が義務づけられています。2026年1月からは、工作物についても有資格者による調査が必要となり、規制はさらに厳格化されました(この点は解体・改修の石綿調査に関する記事で詳しく解説しています)。
本来、この事前調査は着工前に完了しているはずのものです。それにもかかわらず着工後に追加請求が発生するのは、次のいずれかが起きているケースがほとんどです。
- 壁や天井を解体して初めて内部の建材が確認でき、書面調査・目視調査では判明しなかった
- そもそも事前調査を十分に行わないまま見積りを出していた
- アスベストの可能性を認識しながら、見積り段階では触れずに安い金額を提示していた
1つ目は不可抗力に近く、3つ目は悪質です。どのケースなのかによって、支払義務の結論は変わります。「アスベストだから仕方ない」と一括りにせず、まず経緯を切り分けることが出発点になります。
追加請求に応じる義務があるのはどんなときか
判断の軸は、突き詰めれば「その工事代金について、追加で支払う合意があったか」の一点です。請負代金は契約で決まるものであり、業者が一方的に増額を通告しただけでは、当然に支払義務が生じるわけではありません。
支払義務が認められやすいのは、次のような場合です。
- 見積書や契約書に「アスベストが確認された場合は別途協議のうえ追加費用を申し受ける」といった条項があり、実際に発見されて協議を経ている
- 発見の連絡を受けたうえで、施主が金額を確認して除去作業を承諾した(メールやLINEでのやり取りも合意の証拠になります)
- 解体しなければ確認できない箇所からの発見であり、追加費用の内訳と単価が合理的である
逆に言えば、これらの事情がないのに請求されている場合には、争う余地が十分にあるということです。
支払いを拒める典型3パターン
①事前調査義務を怠っていた場合
アスベストの事前調査は施工業者に課された法令上の義務です。義務を果たしていれば着工前に判明したはずの箇所について、調査を省略しておきながら後から追加請求するのは、業者側の落ち度による費用を施主に転嫁するものです。
この場合、追加費用の支払を拒むだけでなく、工期の遅延によって生じた損害について賠償を求められる余地もあります。まず「事前調査の結果報告書を出してください」と求めてください。書面が出てこない、あるいは調査日が着工後になっているようであれば、業者側の主張は大きく揺らぎます。
②施主の承諾なく作業を進め、事後報告で請求してきた場合
アスベストが見つかった時点で、業者は施主に連絡し、除去の範囲・方法・費用を説明して承諾を得るべきです。この手順を飛ばして作業を完了させ、後から請求書だけを送ってくるケースでは、追加分についての合意が成立していません。
もっとも、除去作業自体が客観的に必要であった場合には、業者側から不当利得や事務管理を理由とする主張がなされることもあります。全額を拒めるとは限らず、相当な範囲での減額交渉に落ち着くことが多いという点は押さえておいてください。
③見積書に追加費用の可能性が一切記載されていなかった場合
「一式」とだけ書かれた見積書で契約し、アスベストへの言及が皆無だったというケースです。この場合、施主としては提示された金額で工事が完了すると理解するのが自然であり、その理解に沿った契約内容だったと主張できます。
消費者が個人として契約している場合には、消費者契約法による保護も検討できます。事業者が重要事項について事実と異なる説明をしたり、不利益となる事実をあえて告げなかったりした結果として契約したのであれば、契約の取消しを主張できる場面があります。
追加請求を受けたときの実務対応4ステップ
その場で口頭の了解を与えてしまうと、後から覆すのは難しくなります。次の順序で対応してください。
- その場で承諾しない。「持ち帰って検討します」と伝え、口頭でのやり取りは避けて書面かメールでの提示を求めます。
- 4点の書面を要求する。事前調査の結果報告書、アスベストが確認された箇所の写真、追加費用の内訳書(数量・単価)、そして分析結果の記録です。
- 当初の見積書・契約書を確認する。追加費用に関する条項があるか、「一式」表記になっていないかを見比べます。
- 支払う前に相談する。いったん支払うと、後から返還を求めるハードルは一段上がります。金額に納得できない段階で専門家や消費生活センターに相談してください。
なお、アスベストの除去自体は健康被害を防ぐために必要な作業です。費用を惜しんで無資格・無届のまま工事を進めさせることは、施主にとってもリスクになります。争うべきは「必要な作業かどうか」ではなく「その費用を誰が負担すべきか」である、という点を混同しないことが大切です。
まとめ
アスベストを理由とする追加請求に応じる義務があるかどうかは、「アスベストが出たかどうか」ではなく、事前調査が適切に行われていたかと追加費用について合意があったかで決まります。事前調査を怠っていた場合や、施主の承諾なく作業を進めた場合には、支払を拒んだり減額を求めたりする余地があります。
解体工事は金額が大きく、いったん支払ってしまうと取り戻すのに手間がかかります。追加請求を受けた段階で、その場で答えず、書面を集め、契約内容と突き合わせる——この3つを守るだけで、交渉の結果は変わります。請求内容に疑問を感じたら、支払う前に当事務所までご相談ください。
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