住宅ローンの代表である「フラット35」は、多くの購入者が資金計画に組み込む融資手段です。売買契約の際、「フラット35で融資を受けたい」と考える買主は少なくありません。しかし、融資が利用できなかったからといって、直ちに契約解除や取消しが認められるわけではないことが裁判で確認された事例があります。
今回は、フラット35の適合証明書を取得できなかったことを根拠に契約解除・取消しを求めた事案を取り上げ、実務的な注意点を解説します。
(東京地裁令和4年8月25日判決)
事案の概要
買主Xは、フラット35の利用を前提に不動産を購入する目的で売買契約を締結しました。契約条件は次の通りです。
- 売買代金:3,290万円(手付金200万円)
- 残代金支払期限:令和3年6月28日
- 違約金:売買代金の10%
- 融資利用(フラット35):あり
- 融資特約期限:令和3年3月5日まで
- 融資特約による解除可能期限:令和3年3月12日
契約時、重要事項説明書には建物の耐震性能が低い可能性を示す記載があり、買主は簡易耐震診断報告書を受領していました。また媒介業者からフラット35適合証明書の発行が可能との事前相談の回答を得ていたため、フラット35融資利用の可能性を前提に契約していました。
しかし、融資特約期限を過ぎた令和3年3月15日になって、適合証明書を発行できないとの連絡を買主が受けました。そこでXは、
- フラット35適合証明書が得られなかったことを理由に、契約不適合責任に基づく契約解除
- 錯誤による契約取消し(フラット35融資可否が契約の基礎事情だったとして)
のいずれかで売主への解除・取消しを主張し、手付金の返還等を求めて訴訟を提起しました。
裁判所の判断
裁判所は、買主の主張をいずれも認めませんでした。判断のポイントは次のとおりです。
(1)契約内容に「フラット35利用」が含まれていない
裁判所は、契約締結時に買主がフラット35利用を想定していたとしても、「フラット35が利用できること」が売買契約の内容として合意されていたとは認められないとしました。
あくまでフラット35の融資利用は買主の希望に過ぎず、売買契約の必須条件ではないと判断されたのです。
(2)契約不適合責任(瑕疵)には該当しない
建物の耐震性やフラット35適合証明書の発行可能性については、契約時に説明や事前相談があり、買主はそれを認識したうえで契約したと推認されると裁判所は認定しました。
したがって、契約不適合責任(瑕疵)を根拠に契約を解除することは認められませんでした。
(3)錯誤取消しも認められない
仮に買主がフラット35利用を前提に契約したとしても、それが契約の基礎となる事情だったとはいえないと判断されました。フラット35の利用可否は資金調達方法の問題に過ぎず、契約基礎事情とはいえないと裁判所は述べています。レティオ
結果として、買主の請求はいずれも棄却され、売主は買主の支払遅延を理由として契約解除し、違約金請求をすることが認められました。
実務上のポイント
この裁判例は、フラット35の適合証明書が出なかったからといって、直ちに契約解除・取消しが認められるわけではないという重要な教訓を示しています。
■ フラット35利用は契約条項に明示しない限り前提条件にならない
融資利用希望がある場合、契約書に
- 「フラット35が利用できない場合は契約を解除できる」
- 「適合証明書取得は契約条件である」
などの明確な条項を定めていないと、あとで解除権を主張できないリスクがあります。融資特約を用いる場合は、融資条件の具体的期限や合意内容を詳細に記載することが大切です。
■ 事前相談と事前審査は別物
「適合証明書の事前相談で発行可能」との回答があっても、実際に手続きを進めると発行が得られないケースはあります。事前相談はあくまで見込みであり、契約条件の一部とは評価されません。
■ 買主の認識と契約条項の関係を明らかにする
媒介業者・売主の説明と契約条項が一致していないと、トラブルになるリスクが高くなります。できるだけ契約書に予定している融資手段や条件を具体的に写し取ることが必要です。
まとめ
フラット35の利用可否を巡るトラブルは、単純化しがちですが、契約条項での明示がない場合は解除・取消しが認められない可能性が高いことがこの裁判例で確認されました。融資特約を設ける際は、融資条件の特定・期限・退出条件を明確に規定することが、後の紛争予防において重要となります。
【監修】
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