職場でのパワーハラスメントが原因でうつ病を発症した場合、休職中の退職や契約解除はどう扱われるのでしょうか。今回紹介するY1事件では、障害者福祉施設の職員が上司からの組織的パワハラにより休職していたにもかかわらず、雇用契約上の地位を失ったとされる事例が争われました。裁判所は、退職届の撤回が認められること、休職期間満了による自然退職扱いが労基法違反で無効であることを明確に示し、労働者の権利保護の重要性を示す判決となりました(仙台高等裁判所令和6年2月20日判決)。
事案の概要
本件は、障害者福祉施設を運営する社会福祉法人Y1で職員として勤務していたX1・X2が、Y1に対して雇用契約上の地位確認および未払賃金等の支払を求めるとともに、上司であるY2〜Y4からのパワーハラスメントによりうつ病を発症したとして、慰謝料等の連帯支払を求めた事案です。
X1は退職届を提出後に撤回しましたが、Y1は同日をもって退職と扱いました。X2は休職期間満了を理由に自然退職扱いとされましたが、どちらも業務上の疾病による休業中であったため、退職の効力は生じていないと主張しました。
判決の判断
(1) パワーハラスメントの認定
裁判所は、Y2〜Y4の行為は社会通念上許容される業務上の指導の範囲を超え、心理的負担を与え、法律上保護される利益を侵害したと認定しました。
具体的には、Xらの人格や能力を否定する批判を繰り返し、他の職員にも知らせる形で組織的に行われた一連の行為であることが認められ、Y2〜Y4の共同不法行為およびY1の使用者責任が認められました。これにより、Xらのうつ病発症と業務との因果関係も認められました。
(2) 雇用契約上の地位
X1の退職届は合意解約の申込みにすぎず、撤回が可能であったため雇用契約は有効とされました。また、X2の休職期間満了による自然退職扱いは、業務上の疾病による療養中であったことから労基法19条1項に違反し、効力は生じないと判断されました。結果として、両者の雇用契約上の地位確認請求が認容されました。
判決の意義と解説
本件は、上司によるパワーハラスメントによるうつ病発症事案ですが、ハラスメントの多くは文書や録音により裏付けられており、業務上の指導の枠を超えた違法行為かが焦点となりました。また、労災保険の受給状況や組織体制の審理を通じて、事件解決の方向性を検討できる事例です。
判決は、退職の意思表示を合意解約の申込みと解し撤回を認め、休業中の自然退職扱いが無効であることを明確に示しました。この判断は、同種の労働事件において実務上参考となる重要な判例と言えます。
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