取引先が売掛金・請負代金を支払ってくれない——中小企業・個人事業主が直面する最も深刻な経営課題の一つです。「督促しても無視される」「相手が倒産しそうで焦っている」という方に向けて、未払い売掛金の回収手順を段階別に解説します。
まず確認すべきこと:時効と証拠
回収手続きに入る前に2点を確認しましょう。
- 消滅時効:売掛金・請負代金の時効は、権利を行使できる時から5年(民法改正後)です。時効が成立すると法的に請求できなくなるため、早期対応が必要です。
- 証拠の確保:契約書・注文書・発注メール・納品書・請求書・振込履歴などを揃えます。口頭契約の場合でも、やり取りのメール・LINEが証拠になります。
STEP1:内容証明郵便で支払いを催告
まず、内容証明郵便で「〇月〇日までに支払わなければ法的措置を取る」旨を通知します。内容証明には①送付日の記録②文書の内容の証明という2つの効果があります。これにより相手にプレッシャーをかけるとともに、時効の完成猶予(6か月間)を生じさせます。
STEP2:交渉・和解
内容証明後に相手が反応した場合、分割払いの合意などで解決することがあります。この際は公正証書(執行認諾文言付き)を作成することを強くお勧めします。合意書だけでは後に相手が支払わなくても再度訴訟が必要になりますが、公正証書があれば直接強制執行が可能です。
支払いを拒む理由別の対処法
取引先が支払わない理由によって、有効な打ち手は変わります。督促の前に、相手の言い分を次のどれに当たるか整理しておきましょう。
- 「品質に問題がある」「納品物が注文と違う」:指摘の内容を書面で出してもらい、事実を確認する。修補や一部減額に応じたうえで残額を請求するほうが、全額を争うより早く回収できることが多い
- 「そちらにも損害を与えられた」と相殺を主張される:相手の主張する損害の根拠と金額を示すよう求める。根拠のない相殺の主張は、支払いを遅らせるための口実であることが少なくありません
- 「今はお金がない」:支払能力の問題です。分割払いの合意を公正証書にする、担保や連帯保証人を求めるなど、将来の回収を確実にする手を打ちます
- 連絡が取れない・無視される:内容証明郵便で期限を区切り、応じなければ速やかに法的手続きに移ります
STEP3:法的手続き(支払督促・訴訟)
話し合いで解決しない場合は法的手続きに移行します。
- 支払督促:裁判所から相手に督促状を送る手続き。費用が安く、相手が異議を申し立てなければ速やかに強制執行が可能です。ただし相手が異議を申し立てると通常訴訟に移行します。
- 少額訴訟(60万円以下):1回の期日で判決が出る簡易な訴訟手続きです。
- 通常訴訟:金額が大きい場合や相手が争う場合に選択します。勝訴すれば確定判決(債務名義)を得て強制執行が可能になります。
相手の財産が逃げる前に:仮差押えという選択肢
相手が財産を隠したり、倒産が近い兆候がある場合は、訴訟前に仮差押えを申し立てることを検討しましょう。仮差押えにより相手の銀行口座・不動産・売掛金を暫定的に凍結し、取られる前に保全することができます。スピードが命ですので、早めに弁護士に相談することが重要です。
仮差押えの申立てでは、請求額の1〜3割程度を目安とする担保金の供託を求められます。担保金は、本案の訴訟で勝訴すれば取り戻せます。相手に知られずに手続きが進むため、財産を移される前に押さえられるのが最大の利点です。

STEP4:強制執行で回収する
判決や仮執行宣言付支払督促を得ても相手が払わない場合は、強制執行で相手の財産を差し押さえます。取引先が会社や個人事業主であれば、主な差押え先は次の3つです。
- 預金口座:取引で使っていた振込先口座が第一候補です(「銀行口座の差し押さえ方法と手順・費用」参照)
- 相手の取引先に対する売掛金:相手の顧客から直接支払いを受けられ、相手への圧力も大きい方法です
- 在庫・機械などの動産、不動産:費用がかさむため、預金や売掛金で回収できないときに検討します
遅延損害金も請求できる
支払期日を過ぎた売掛金には、元本に加えて遅延損害金を請求できます。契約で利率を定めていなければ法定利率の年3%(民法404条・419条)、契約書や取引基本契約で「年14.6%」などと定めていればその利率によります。2020年4月の民法改正で商事法定利率(年6%)は廃止されているため、改正前の感覚で計算しないよう注意してください。
取引先の倒産が近いときのサイン
支払いの遅れが「一時的な資金繰り」なのか「倒産の前兆」なのかで、動くべき速さが変わります。支払サイトの延長を求められる、手形のジャンプを頼まれる、担当者や代表者と連絡がつきにくくなる、主要な取引先を失ったという噂を聞く、といった兆候が重なれば、仮差押えを急ぐべき段階です。破産手続が始まってしまうと個別の回収はできなくなり、配当を待つしかありません(「取引先が破産したら売掛金はどうなる?」参照)。
よくある質問
Q. 取引を続けたいので、強い手段はとりたくないのですが?
まずは支払条件の見直し(分割払い・支払サイトの調整)を提案し、合意内容を書面に残すのが現実的です。ただし、未払いが累積したまま取引を続けると回収不能額が膨らむため、「次回の納品は前回分の入金後」といった条件を付けることも検討してください。
Q. 少額の未払いが多数ある場合は?
1件あたりの金額が小さい場合は、費用の安い支払督促や少額訴訟が向いています(「支払督促で債権回収する流れと費用」「少額訴訟は使える?」参照)。同じ相手に複数の未払いがあれば、まとめて1つの手続きで請求できます。
Q. 契約書を作っていなかった取引でも回収できますか?
できます。売買や請負の契約は口頭でも成立するため、注文のメールやLINE、見積書、納品書、請求書、過去の入金記録を組み合わせて取引の内容を立証します。
まとめ
売掛金・請負代金の未払い回収は、内容証明→交渉→法的手続き→強制執行という段階を踏みます。相手の財産が逃げる前の仮差押えや、時効への対応など、タイミングが重要です。「督促しても無視される」「相手の財産を守りたい」という場合は、早めに弁護士にご相談いただくことで回収率を高めることができます。
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