管理費や修繕積立金の滞納が長引き、やむなく訴訟を起こすことになったとき、管理組合の側には弁護士費用という新たな負担が生じます。「滞納したのは向こうなのに、なぜこちらが費用を負担するのか」というのは自然な感覚です。結論から言うと、管理規約に「違約金としての弁護士費用」の条項があれば請求でき、なければ原則として請求できません。本コラムでは、その根拠と裁判所の判断、条項がない場合にどうするかを解説します。
この記事のポイント
- 管理費の滞納者に弁護士費用を負担させられるのは、管理規約に「違約金としての弁護士費用」を請求できる条項がある場合に限られる
- 東京高裁平成26年4月16日判決は、違約金条項にもとづき、管理組合が実際に支払った弁護士費用102万9,565円の請求を認めた
- 条項があっても、認められるのは現実に支出した額のうち相当な範囲。滞納額に比べて過大な費用は減額されうる
- 条項がなければ、区分所有者と議決権の各4分の3以上の集会決議で規約を改正する(区分所有法31条1項)。改正後に発生した滞納にしか適用できない
- 遅延損害金の利率も規約で定めておく。定めがなければ法定利率(現在は年3%)にとどまる
なぜ原則として請求できないのか
民事訴訟では、勝訴しても弁護士費用は相手方に負担させられないのが原則です。敗訴者が負担する「訴訟費用」には、印紙代や証人の旅費などは含まれますが、弁護士に支払う着手金・報酬は含まれません。各自が自分の弁護士費用を負担するという建前になっています。
例外として、交通事故のような不法行為に基づく損害賠償請求では、認容額のおおむね1割程度が弁護士費用相当額として加算されるのが実務です。しかし管理費の請求は、規約に基づく支払義務を果たしていないという債務不履行の問題であり、この例外は使えません。
そこで登場するのが管理規約です。あらかじめ「滞納した場合は弁護士費用も払う」と約束させておけば、その約束(違約金の合意)に基づいて請求できることになります。
標準管理規約はどう定めているか
国土交通省が公表しているマンション標準管理規約(単棟型)60条2項は、次のような趣旨の規定を置いています。
組合員が期日までに納付すべき金額を納付しない場合には、管理組合は、その未払金額について、年利〇%の遅延損害金と、違約金としての弁護士費用並びに督促及び徴収の諸費用を加算して、その組合員に対して請求することができる。
ポイントは「違約金としての」という位置づけです。単に「弁護士費用を請求できる」と書くのではなく、滞納という義務違反に対する違約金という構成を取ることで、請求の根拠が明確になります。
自組合の規約が標準管理規約をベースにしていても、この条項が入っているとは限りません。古い規約や、独自に作成された規約では欠落していることがあります。まず現物を確認してください。
裁判所も違約金条項を認めている
東京高等裁判所平成26年4月16日判決は、管理規約に違約金としての弁護士費用の定めがあった事案で、管理組合が実際に支払った弁護士費用102万9,565円の請求を認めました。
判断の骨格は次のとおりです。
- 管理費の支払いは区分所有者の当然の義務であり、滞納はその義務違反である
- 管理組合は義務の履行を求めているにすぎず、不当な請求をしているわけではない
- 規約に違約金条項がある以上、そこで生じた弁護士費用は滞納者が負担すべきである
要するに「自分の滞納が招いた結果なのだから、費用を負担させられても不合理ではない」という理屈です。管理組合にとっては心強い判断ですが、前提はあくまで規約に条項があったことである点を見落とさないでください。
全額が認められるとは限らない
条項があっても、支払った額がそのまま通るわけではありません。裁判所は「現実に支出した額のうち相当な範囲」という枠をはめます。滞納額が20万円の事案で弁護士費用100万円を請求すれば、相当性を欠くとして減額される可能性が高いということです。
また、規約の文言が曖昧だと請求自体が通らないことがあります。裁判所が見るのは次の2点です。
- 弁護士費用を「違約金として」請求できると明記されているか。「費用を請求できる」だけでは、督促状の郵送代など実費のみを指すと解釈される余地が残ります。
- 対象が「管理組合が現実に支出した弁護士費用」であると特定されているか。算定基準が読み取れない条項は、相当額に限るという限定が付くか、無効とされるおそれがあります。
条項がない場合──規約を改正する
規約に条項がなければ、改正するしかありません。区分所有法31条1項により、規約の変更には区分所有者および議決権の各4分の3以上の賛成による集会の決議が必要です。理事会の決議だけではできません。
ここで重要なのがタイミングです。違約金条項は、改正後に発生した滞納にしか適用できません。すでに発生している滞納分について、後から条項を作って弁護士費用を上乗せすることはできないのです。滞納者が出てから慌てても間に合いません。
改正の機会があるなら、遅延損害金の利率もあわせて見直しておくことをお勧めします。利率の定めがなければ法定利率(現在は年3%)にとどまり、滞納を放置された場合の抑止力になりません。
よくある質問
訴訟をせず、内容証明の送付だけで終わった場合も請求できますか。
標準管理規約の条項は「督促及び徴収の諸費用」も対象に含めています。この文言があれば、訴訟に至らない段階の弁護士費用も請求の対象になり得ます。ただし金額の相当性は問われます。
滞納者が部屋を売却しました。買主に弁護士費用も請求できますか。
管理費そのものは区分所有法8条により買主(特定承継人)に請求できます。違約金としての弁護士費用が同じように承継されるかは、規約の定め方と事案によって判断が分かれるところです。買主への請求を検討する場合は、個別に確認が必要です。管理費本体の回収手順は「管理費を滞納されて困っている管理組合へ──強制執行による回収の方法とは?」で解説しています。
条項があれば、必ず弁護士に依頼したほうが得ですか。
滞納者に資力がなければ、判決で弁護士費用の支払いが認められても現実には回収できません。条項の有無だけでなく、回収の見込みを含めて判断すべきです。逆に、滞納額が大きく資産もありそうな事案では、費用を相手に負担させたうえで回収できる可能性が高まります。
まとめ
弁護士費用を滞納者に負担させられるかどうかは、訴訟の場で争うことではなく、その前に管理規約をどう作っておいたかで決まります。違約金としての弁護士費用の条項があれば、東京高裁の判断のとおり100万円規模の費用でも認められ得ます。条項がなければ、原則として管理組合の持ち出しです。
そして条項は、作った後に発生した滞納にしか効きません。いま滞納者がいない組合こそ、規約を確認しておく価値があります。
管理規約の見直しや、滞納者への対応でお困りの際は、お早めにご相談ください。
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