整理解雇は、人員削減の必要性、解雇回避の努力、人選の合理性、手続の相当性という4つの要素から厳しく判断されるのが一般的です。ところが、高い専門性・地位・待遇を得ていた人材が余剰人員になった場合には、その判断の目線が変わることがあります。東京地裁は2026年3月9日、年収1億円前後の企業内弁護士の解雇を有効としました(東京地裁令和8年3月9日判決・JPモルガン証券事件)。どのような事情が有効判断を支えたのかを整理します。
1. 事案の概要
元従業員は、専門性の高い企業内弁護士として採用され、会社の従業員の中で最高位の職位にあり、取締役も兼務していました。年収は1億円前後です。
元従業員は休職しており、会社との間で復職に向けた交渉が行われていました。しかし元従業員は余剰人員と位置づけられ、会社は退職勧奨を経て解雇に踏み切ります。元従業員は解雇無効による地位確認と未払賃金、さらに退職強要や不当解雇などを理由とする慰謝料を請求しました。
2. 裁判所の判断——解雇は有効
裁判所は、解雇に客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当でないともいえないとして、解雇を有効と判断しました(労働契約法16条)。判断の要素は大きく2つに分かれます。
(1) 解雇に至るまでの会社の対応
- 解雇以外の対応策を相応に検討した
- 元従業員に説明等の機会を設けるため相当の努力をした
- 退職勧奨にあたり相当程度の退職条件を示した
- 話合いを経ても合意に至らず、解雇以外に現実的な対応策がないと判断した
(2) 元従業員の専門性・地位・待遇
裁判所は、これほど高い専門性・地位・待遇にある人材が余剰人員となった場合に解雇が検討されることは、必ずしも不合理・不相当ではないとしました。さらに、弁護士資格を持つ高度専門人材であれば、資格のない人と比べて解雇による経済的・経歴的な打撃は相対的に大きくないとも述べています。
これらを総合して、解雇は有効とされました。
3. 休職中のアクセス制限は違法ではない
元従業員は、会社の対応が人格権侵害や安全配慮義務違反に当たるとも主張しました。しかし裁判所は、主張された行為はいずれも復職に向けた交渉が行われていた期間のもので、元従業員はその時点で休職中で復職していなかった以上、会社がメールアカウントやイントラネットへのアクセス、オフィスへの立入りを適切でないと判断したこと自体は違法ではないとして、慰謝料請求を退けました。
休職者の情報システムへのアクセスを止めることは、情報管理の観点から多くの会社が行っています。それが「締め出し」として違法と評価されるかどうかは、休職中であるという状態と、復職交渉の経過の中で説明がつくかどうかにかかっています。
4. この判決をどこまで一般化できるか
本判決は、一般の従業員の整理解雇にそのまま当てはまるものではありません。有効判断を支えたのは、次のような特殊な事情です。
- 最高位の職位・取締役兼務・年収1億円前後という、社内に代わりのポストがない地位
- 弁護士資格という、社外で通用する高度な専門資格
- 相当程度の退職条件を示したうえでの退職勧奨と、話合いの経過
特に3点目は見落とせません。高待遇の人材だから解雇しやすいのではなく、解雇以外の手段を検討し、十分な条件を提示し、話合いを尽くしたことが前提になっています。外資系企業や専門職の中途採用で、ポジションの廃止や組織再編に伴って高位の人材を解雇せざるを得ない場面では、参考になる判決です。
5. 会社側が取るべき実務対応
- 解雇以外の選択肢を検討した記録を残す 配置転換の可能性、職務内容の変更、処遇の見直しなどをどう検討し、なぜ採れなかったのかを文書化します。
- 退職条件は相場を踏まえて具体的に示す 「相当程度の退職条件」が有効判断の一要素になりました。上乗せ退職金や再就職支援などの内容と、提示の経過を記録してください。
- 説明の機会を繰り返し設ける 面談の申入れ、資料の提示、質問への回答を重ねた事実が「相当の努力」と評価されます。
- 休職者へのアクセス制限は理由を説明する 情報管理上の必要性と、復職時には解除する方針を伝えておけば、「締め出し」と受け取られにくくなります。
まとめ
本判決は、最高位の職位・取締役兼務・年収1億円前後の企業内弁護士が余剰人員となったケースで、会社が解雇回避策の検討、説明の機会の確保、相当程度の退職条件の提示と話合いを尽くしたことを踏まえ、解雇を有効としました。休職中のアクセス制限も違法ではないとされています。
幹部・専門職の解雇は、金額が大きいぶん紛争化したときの負担も大きくなります。当事務所では会社側の立場で、退職勧奨の条件設計から解雇の判断、訴訟対応までご相談を受けています。
【監修】

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