「あなたの共有不動産の持分を買い取りました。今後のことでご相談があります」——ある日突然、見知らぬ不動産業者からこのような手紙が届く。相続で実家を共有にしていた方に、近年急増しているトラブルです。共有者の一人が自分の持分だけを買取業者に売却したことで、親族間の共有に第三者が入り込んでくるのです。本記事では、共有持分を勝手に売却された場合の法律関係と、買取業者への具体的な対処法を弁護士が解説します。

共有持分だけの売却は「違法ではない」

まず押さえておくべき出発点は、共有持分の売却に他の共有者の同意は不要だということです。不動産全体を売却するには共有者全員の同意が必要ですが、自分の持分だけであれば、各共有者は自由に処分できます(民法206条・249条)。「勝手に売るなんて許せない」という感情は自然ですが、売却行為自体を違法として取り消すことは原則できません。

だからこそ、「誰が新しい共有者になったのか」「その業者は何を狙っているのか」を冷静に把握し、法的に適切な対応を取ることが重要になります。

持分買取業者のビジネスモデルを知る

対応を考えるうえで、買取業者のビジネスモデルを理解しておくと交渉の見通しが立てやすくなります。共有持分は単独では住むことも自由に売ることもできない「使いにくい権利」のため、業者は市場価格の持分相当額より大幅に安く買い取ります。そして、次のような出口で利益を得ようとします。

  • 他の共有者に、買い取った持分を(取得価格より高く)買い取るよう持ちかける
  • 逆に、他の共有者の持分を安く買い取って不動産全体を取得し、転売する
  • 共有物分割請求訴訟を提起し、換価分割(売却代金の分配)や価格賠償で投下資本を回収する
  • 不動産を使用している共有者に持分に応じた賃料相当額を請求する

つまり業者にとって、あなたに連絡を取ること自体が利益実現のプロセスです。「話を聞かなければ何も起こらない」わけではなく、放置すれば次の法的手段(分割請求訴訟)へ進むのが通常であることを前提に対応する必要があります。

実際に多い買取業者トラブルの5つの型

ご相談を受けるなかで繰り返し見られるのは、次の5つの型です。自分がどの型に置かれているのかを見極めると、取るべき対応がはっきりします。

①取得価格を大きく上回る価格での買取提案

安く取得した持分を、取得価格の数倍で他の共有者に買い取るよう求めてくる型です。「共有状態は解消したいでしょう」と持ちかけ、断れば分割請求訴訟を示唆します。業者の取得価格は開示されないため、提示額が妥当かどうかは不動産全体の時価から逆算して判断するほかありません。

②使用料(賃料相当額)の請求

実家に住み続けている共有者に対し、持分に応じた使用料を請求してくる型です。請求自体には法的根拠があり得る一方で、算定根拠が示されないまま高額を求められることが多いのが特徴です(詳しくは後述します)。

③訪問・電話を繰り返しての接触

高齢の共有者が一人で居住している場合に多い型です。判断材料を持たないまま書面に署名してしまうと、後から覆すのは容易ではありません。その場で回答しないという一点を家族間で共有しておくだけでも、状況は大きく変わります。

④他の共有者への個別接触による切り崩し

共有者が複数いる場合に、応じそうな人へ個別に接触して持分を買い集める型です。共有者間で情報を共有していないと、気づいたときには業者が持分の過半数を押さえていることがあります。共有物の管理に関する事項は持分の価格の過半数で決するため(民法252条1項)、過半数を握られると使用方法の決定で主導権を失います。

⑤はじめから分割請求訴訟を前提とした買取

交渉らしい交渉をせず、取得後まもなく共有物分割請求訴訟を提起する型です。業者にとって訴訟は本来の出口であり、交渉が決裂することを恐れていません。「強気に断れば引き下がるだろう」という前提は通用しないと考えてください。

5つに共通するのは、業者が「共有は不便だ」という事実そのものを交渉材料にしている点です。裏を返せば、こちらが先に出口——単独所有にするのか、売却して精算するのか——を決めてしまえば、主導権は取り戻せます。

持分を業者に売却する以外にも、共有物分割請求によって共有関係を解消し、適正な価格で精算する方法があります。判断材料として、共有物分割請求のご案内で手続の流れと費用の目安をご確認ください。

持分を譲渡して対価を得た実際の事案は、解決事例「離婚に伴い共有名義の自宅を清算。持分を譲渡し対価を取得」でご覧いただけます。

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買取業者から連絡が来たときの対応

業者から連絡が来た場合の対応のポイントは次のとおりです。

  • ①無視し続けない:連絡を絶てば業者は共有物分割請求訴訟へ進み、裁判所主導での解決(場合によっては競売)になります。競売では市場価格を下回る換価となりがちで、あなたにとっても不利です。
  • ②その場で回答しない・書面に署名しない:「買い取ります」「売ります」という言質や書面は交渉上決定的な意味を持ちます。提示価格が適正かどうかの判断材料がない段階で応じてはいけません。
  • ③不動産の適正価格を把握する:不動産全体の市場価格と持分の評価を把握してから交渉に臨みます。業者の言い値は、買取時は安く・売却時は高く設定されているのが通常です。
  • ④弁護士を窓口にする:交渉のプロである業者と個人が直接やり取りするのは不利です。弁護士が入ることで、強引な働きかけが止まり、価格交渉も対等に進められます。

業者から「使用料を払え」と言われたら

共有不動産に住み続けている方からのご相談で最も多いのが、この使用料(賃料相当額)の請求です。「持分に応じた使用料を支払わなければ共有物分割請求訴訟を提起する」と通知されることもあります。

請求自体には法的根拠があり得る

共有者は、共有物の全部について持分に応じた使用をすることができます(民法249条1項)。そのうえで、自己の持分を超えて共有物を使用している共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対して自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負います(同条2項)。この償還義務は2023年4月施行の改正民法で明文化されました。したがって、持分を取得した業者が使用料を求めること自体を、直ちに不当と言うことはできません。

それでも「言われた額をそのまま払う」必要はない

実務では、次の点が争点になります。

  • 無償で使用させる合意があったか:条文にいう「別段の合意」です。被相続人の生前から同居していた場合などには使用貸借の成立が認められ、その関係が相続開始後も一定期間続くと評価されることがあります
  • 賃料相当額の算定が適正か:業者の言い値ではなく、近隣の賃料相場に基づいて算定されるべきものです
  • 遡って請求できる範囲:その業者が持分を取得した時点より前の期間まで、当該業者が請求できるわけではありません
  • 固定資産税・修繕費の負担:あなたが負担してきた管理費用は持分に応じて他の共有者に求償できます(民法253条1項)。使用料の請求と併せて整理すべき事項です

とくに一つ目は重要です。業者は同居の経緯を知らないまま一律の請求書を送ってくることが多いため、事実関係を整理したうえで反論する余地が残されています。

使用料の交渉は「出口」とセットで進める

使用料だけを切り離して支払い続けると、共有状態が固定されたまま支出だけが積み上がります。住み続けたいのであれば業者の持分を取得して単独所有にする、そうでなければ換価して精算する——最終的な出口を決めたうえで、そこへ向かう交渉材料として使用料の問題を扱うのが適切です。

共有物分割請求訴訟を起こされたら

業者が共有物分割請求訴訟を提起した場合、裁判所は①現物分割、②賠償分割(一方が持分を取得し代償金を支払う)、③換価分割(競売による売却代金の分配)のいずれかで共有を解消します。建物の場合は現物分割が困難なため、実務上は賠償分割か換価分割が中心です。

ここで重要なのは、訴訟になっても「あなたが業者の持分を適正価格で買い取って単独所有にする」(全面的価格賠償)という着地があり得ることです。実家を守りたい場合には、裁判所に対して価格賠償による分割を求め、適正な鑑定に基づく価格で決着させる方針が考えられます。逆に維持にこだわりがなければ、換価分割で市場売却し代金を分ける方が経済合理的なこともあります。どの出口が最善かは、資金力・不動産への愛着・他の共有者の意向によって変わるため、早期に方針を定めることが大切です。

住み続けたいなら「業者の持分を買い取る」準備を早めに

業者とのトラブルで最も多いのは、「家に住み続けたいが、業者は売却か高額での買取を迫ってくる」という構図です。この場合の現実的な着地は、あなたが業者の持分を買い取って単独所有にすることです。交渉で話がまとまらず訴訟になっても、裁判所が「全面的価格賠償」という方法で同じ結論を命じることがあります(2023年4月施行の改正民法で、民法258条2項2号に分割方法の一つとして明記されました)。

裁判所が認めるための4つの条件

最高裁は、全面的価格賠償が認められる場合を次のように示しています(最高裁平成8年10月31日判決・民集50巻9号2563頁)。

  • あなたが取得するのが相当であること:不動産の性質や利用状況、共有になった経緯、持分の割合、各共有者の希望とその合理性などを総合して判断されます。長年住んでいる、ほかに住まいがないといった事情はここで主張します
  • 価格が適正に評価されていること:不動産全体の価格を鑑定などで適正に評価します
  • 代償金を支払う能力があること:業者に支払うお金を用意できることを示す必要があります
  • 共有者の間で実質的に不公平にならないこと

とくに注意したいのは三つ目です。住み続けたい事情がどれだけあっても、代償金を払えることを示せなければ、全面的価格賠償は認められず、競売による換価分割になるおそれがあります。預金や住宅ローンなどの資金のめどを、訴訟になる前から立てておくことが、家を守るうえでいちばん大切な準備です。

業者は「安く買って、全体の価格で受け取る」

持分だけを第三者に売る場合、買い手が自由に使えないことから、相場より大きく値引きされるのが普通です(共有減価)。一方、全面的価格賠償の代償金を計算するときは、取得する人が単独所有になって共有の不都合がなくなるため、共有減価を適用しないのが一般的とされています(『共有不動産の紛争解決の実務〔第2版〕』)。

つまり業者は、親族から安く買った持分について、訴訟になれば「不動産全体の価格×持分割合」に近い額を受け取れる見込みがあります。これが業者のビジネスの仕組みです。裏を返せば、訴訟前の交渉で、鑑定費用や時間の負担を踏まえた現実的な価格での買取を提案する余地もあります。どちらが有利かは、不動産の評価額と業者の取得価格の差によって変わります。

業者の分割請求を「権利の濫用」として争えることはあるか

共有物分割請求権は、持分を自由に処分できる権利とともに十分尊重されるべき財産上の権利とされており(最高裁昭和62年4月22日大法廷判決)、持分を買い取った業者からの請求だというだけで退けられることは、基本的にありません。

もっとも、分割の自由を貫くことが著しく不合理な場合には、権利の濫用として請求が認められないことがあります。たとえば、別居中の夫が、妻子が住む夫婦共有の自宅の競売を求めた事案では、財産分与で妻が取得する可能性があること、妻が高齢で収入を得にくいこと、夫側に売却を急ぐ強い必要性がないことなどから、請求が権利の濫用とされました(大阪高裁平成17年6月9日判決)。

業者が相手の場合にそのまま当てはまるわけではありませんが、住んでいる親族の生活への影響、共有になった経緯、業者が持分を取得した事情などによっては、争う材料になり得ます。権利の濫用だけに頼るのではなく、前述の買取の準備と並行して主張を組み立てるのが現実的です。

業者からの通知を放置するとどうなるか

「関わりたくない」と業者からの手紙や電話に応じずにいると、業者は共有物分割請求訴訟を起こしてきます。訴訟でも反論や希望を出さないままでいると、住み続けたい事情や代償金を払える資金があることを裁判所に示す機会を失い、競売による換価分割が命じられるおそれがあります。競売になれば、市場で売るより低い価格になることが多く、住まいも失います。

業者から通知が届いたら、返事をする前に、①不動産全体のおおよその価格、②業者が持分を取得した時期と経緯(登記事項証明書で確認できます)、③買い取る場合の資金のめど、の3点を整理して弁護士に相談してください。

自分の持分を売りたい側になったら

逆の立場、つまり「共有関係から抜けたくて持分の売却を考えている」方への注意も一言。買取業者への売却は迅速ですが、価格は大幅に安くなり、残された親族と業者との間に紛争の火種を残します。まずは他の共有者への売却(買取打診)や、共有物分割請求による解消を検討する方が、経済的にも関係性の面でも良い結果になることが多いです。ここでも弁護士による交渉が有効です。

まとめ

共有持分だけの売却は適法であり、業者が共有者に加わること自体は止められません。しかし、業者のビジネスモデルを理解し、適正価格を把握したうえで交渉すれば、不当に安く買い叩かれたり高く買わされたりすることは防げます。放置すれば分割請求訴訟・競売という不利な展開もあり得るため、業者から連絡が来た段階で早めに弁護士へご相談ください。弁護士法人横浜キャピタル法律事務所が交渉から訴訟まで一貫して対応します。

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米玉利大樹代表弁護士
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