――b事務所事件(東京地裁 令和7年6月13日判決)解説

「試用期間中だから、合わなければ解雇できる」
企業側がそのように考えてしまいがちですが、裁判所の判断は必ずしもそうではありません。

今回紹介する b事務所事件(東京地裁 令和7年6月13日判決) は、試用期間中の解雇であっても、客観的合理性と社会的相当性がなければ無効と判断された事例です。


事案の概要|試用期間中の解雇をめぐる争い

b事務所は、公益財団法人の設立・運営に関するコンサルティング業務を行う会社です。
同社と労働契約を締結していた元従業員は、試用期間中に解雇されました。

元従業員は、

  • 解雇は無効である
  • 労働契約上の地位を有する
  • 解雇後の賃金(民法536条2項)および解雇前の未払賃金がある

として、会社を提訴しました。


裁判所の結論|試用期間中の解雇は無効

東京地裁は、
本件解雇は試用期間中の解雇であるものの無効であると判断しました。

その結果、

  • 労働契約上の地位確認請求を認容
  • 未払賃金等の支払請求を一部認容

という結論となりました。


判断のポイント①|「留保解約権」の行使にも合理的理由が必要

裁判所は、本件解雇を
試用期間中に会社に留保された解約権の行使と位置付けました。

しかし、その行使が有効となるためには、

  • 客観的に合理的な理由
  • 社会通念上の相当性

が必要であるとしています。


判断のポイント②|「期待していた能力」は契約内容か

会社は、
元従業員が「富裕層との折衝経験や人脈を有していなかった」ことを理由に、
解雇の正当性を主張しました。

しかし裁判所は、

  • そのような能力が労働契約上、当然に備えているべき職務能力とはいえない
  • 契約時に明確に合意されていたとも認められない

として、
解雇理由としての合理性を否定しました。


判断のポイント③|年俸制でも月額給与はどう決まるか

本件では、契約書には
「年額1000万円」との記載しかなく、月額給与は明示されていませんでした。

裁判所は、

  • 面接時の説明内容
  • 採用内定通知の記載
  • 実際に支払われていた給与額
  • 元従業員が異議を述べていなかったこと

を踏まえ、
月額給与は66万6666円と合意されていたと認定しました。


未払賃金の判断|請求が一部しか認められなかった理由

元従業員は、
月額83万3333円を前提とした未払賃金を請求しました。

しかし裁判所は、
合意された月額給与は66万6666円であるとして、
解雇前の未払賃金請求は否定しました。

一方で、

  • 令和5年8月分の未払賃金30万円
  • 判決確定日までの毎月の賃金支払義務

については、会社の支払義務を認めています。


実務への影響|試用期間中の解雇リスク

本判決から分かる重要な点は、

  • 試用期間中でも解雇は「自由」ではない
  • 抽象的な能力不足や期待外れでは足りない
  • 契約時にどのような説明・合意があったかが重視される

という点です。


まとめ|試用期間の解雇は慎重な判断が必要

試用期間は、あくまで適格性を見極める期間にすぎません。
「思っていた人物像と違った」という理由だけで解雇すると、
無効と判断されるリスクが高いといえます。

採用段階での説明内容や、
試用期間中の評価・指導の記録を残すことが、
企業にとって重要なリスク管理となります。

【監修】

米玉利大樹
米玉利大樹代表弁護士
年間数百件の法律相談を受け、年間100件以上の法律問題を解決しています。
「より良い解決」「迅速な解決」を大事にしており、個々の事案に適したスピーディな進行・解決を心がけています。
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