――フォーラムエイト事件(東京地裁 令和7年6月5日判決)解説

業績悪化や人事評価を理由に、従業員の賃金を引き下げるケースは少なくありません。
しかし、明確な基準や本人の同意がない賃金減額は、違法と判断される可能性があります。

今回取り上げる フォーラムエイト事件(東京地裁 令和7年6月5日判決) は、
年俸制の従業員に対する賃金減額や人事措置の適法性が争われた事例です。


事案の概要|年俸減額と相次ぐ人事措置

元従業員は、フォーラムエイトにおいて年俸800万円で勤務していました。
しかし会社は、令和2年7月1日付で、

  • 年俸を800万円から650万円に減額
  • さらに総合職から一般職へ降格
  • 年俸を650万円から480万円に再減額
  • 福岡への転勤
  • 営業職への職種変更

といった一連の措置を行いました。

これに対し元従業員は、

  • 賃金減額は違法である
  • 退職勧奨や人事措置は不当である

として、賃金減額分の支払および慰謝料を求めて提訴しました。

一方、会社は反訴として、
立替払いした社会保険料等の返還を求めました。


裁判所の結論|賃金減額は無効、人事権の濫用も認定

東京地裁は、

  • 年俸800万円から650万円への賃金減額は無効
  • 転勤命令・職種変更命令は人事権の濫用
  • 慰謝料請求は一部認容

と判断しました。

一方で、
会社が立替えた社会保険料等については、元従業員に返還義務があるとして、反訴請求を認めました。


判断のポイント①|客観的基準のない賃金減額は無効

会社は、力量基準レベルに基づく査定を理由に賃金を減額したと主張しました。

しかし裁判所は、

  • 評価方法が点数化されていない
  • 減額幅や限界が定められていない
  • どの程度の評価でいくら減額されるのか不明確

であるとして、
客観的・合理的な年俸決定方法が合意されていたとはいえないと判断しました。

その結果、
本人の同意なく行われた賃金減額は無効とされました。


判断のポイント②|生活を脅かす大幅減額は不法行為にも該当

本件の賃金減額は、18.75%もの減額でした。

裁判所は、このような減額は、

  • 従業員の生活を脅かす重大な不利益
  • 単なる労務管理の範囲を超える

として、
不法行為にも該当すると判断しました。

もっとも、慰謝料額については、
賃金減額分が支払われることを考慮し、10万円が相当とされました。


判断のポイント③|転勤・職種変更は「退職に追い込む意図」

元従業員は、58歳で入社し、
公認会計士資格や管理職経験を活かすことを期待されていました。

それにもかかわらず、

  • 東京から福岡への長距離転勤
  • 未経験の営業職への変更
  • 事前の意向確認なし

といった措置が取られた点について、裁判所は、

社会的相当性を欠き、退職を強いる意図すらうかがわれる
として、人事権の濫用を認定しました。


反訴の判断|社会保険料等の立替分は返還義務あり

一方で、会社が立替払いした

  • 社会保険料
  • 雇用保険料
  • 住民税
  • 勤怠控除相当額

合計45万7200円については、
本来従業員が負担すべきものであるとして、
不当利得返還請求が認められました。


実務への示唆|年俸制でも賃金減額は慎重に

本判決から明らかなのは、

  • 年俸制であっても賃金減額は自由ではない
  • 客観的基準と本人同意が不可欠
  • 人事措置が退職強要と評価されるリスクがある

という点です。


まとめ|賃金減額と人事権行使は「説明」と「合理性」が鍵

賃金減額や転勤・職種変更は、
企業にとって重要な人事権の行使ですが、
合理性を欠けば違法となります

フォーラムエイト事件は、
賃金減額と人事措置をめぐるリスクを改めて示した判例といえるでしょう。

【監修】

米玉利大樹
米玉利大樹代表弁護士
年間数百件の法律相談を受け、年間100件以上の法律問題を解決しています。
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