――B WORLD PATENT&TRADEMARK事件(大阪地裁 令和7年9月18日判決)解説

休職制度を設けている企業の中には、
「休職期間が満了したら、その時点で退職扱いになる」
と考えているところも少なくありません。

しかし、休職期間満了を理由とする退職扱いは、必ずしも有効とは限りません

今回紹介する BWORLDPATENT&TRADEMARK事件(大阪地裁 令和7年9月18日判決) は、
休職期間満了を理由とした退職扱いが無効と判断され、
元従業員の地位確認と未払賃金の支払が一部認められた事例です。


事案の概要|精神疾患による休職と退職扱い

元従業員は、会社と雇用契約を締結して勤務していましたが、
精神疾患を発症し、休職に入りました。

その後、会社は、
休職期間が満了したことを理由に、元従業員を退職扱いとしました。

これに対し元従業員は、

  • 休職期間満了を理由とする退職扱いは無効である
  • 依然として雇用契約上の地位を有している
  • 未払賃金等の支払義務がある

として、会社を提訴しました。


裁判所の結論|退職扱いは無効

大阪地裁は、
休職期間満了を理由とする退職扱いは無効と判断しました。

その結果、

  • 雇用契約上の地位確認請求を認容
  • 未払賃金等支払請求を一部認容

という結論となりました。


判断のポイント①|休職期間の終期を「教示する義務」

本判決の最大の特徴は、
使用者には、休職期間の終期を教示すべき義務がある
と明確に述べた点です。

裁判所は、

  • 休職期間の終期について問い合わせを受けた場合
  • 使用者は、雇用契約に付随する義務として
  • 休職中の労働者にその終期を正確に教示すべき

としました。

本件では、会社がこの義務を怠り、
結果として元従業員の復職の機会を不当に制限または喪失させたと評価されました。


判断のポイント②|信義則違反・権利濫用の判断

会社は、

  • 休職期間満了までに復職可能との診断書が提出されなかった
  • そのため退職扱いとした

と主張しました。

しかし裁判所は、

  • 休職期間の終期を適切に教示していない
  • 復職準備の機会を会社自ら奪っている

以上の事情から、
退職扱いは信義則違反または権利の濫用として許されない
と判断しました。


判断のポイント③|就労意思は失われていない

会社は、
元従業員は就労の意思を喪失していると主張しました。

確かに、
元従業員が一時的に「戻るつもりはない」と発言したことや、
ハローワークで求職活動をしていた事実はありました。

しかし裁判所は、

  • 発言は受診時の一場面であり確定的とはいえない
  • 組合を通じて退職扱いの撤回を求めていた
  • 復職を前提とした協議を継続して求めていた

ことから、
就労意思はなお認められると判断しました。


判断のポイント④|軽減・短時間勤務による復職可能性

さらに裁判所は、
元従業員の就労能力についても踏み込みました。

  • 一定期間、軽減・短時間業務に従事すれば
  • 従前の職務に復帰できる状態にあった
  • 本件休職期間満了日の翌日から、短時間勤務を行えば
  • 従前の職を行う能力を回復できた

として、
復職可能性があったにもかかわらず退職扱いとした点を重く見ました。


実務への示唆|休職制度運用の注意点

本判決が示す実務上の重要なポイントは以下のとおりです。

  • 休職期間満了=自動退職とはならない
  • 休職期間の終期は明確に通知する必要がある
  • 軽減勤務・短時間勤務による復職の検討が不可欠
  • 形式的な診断書未提出だけで退職扱いにしない

まとめ|休職期間満了時の対応は慎重に

休職制度は、労働者の療養と職場復帰を前提とする制度です。
その趣旨を無視した退職扱いは、無効と判断されるリスクが高いといえます。

B WORLD PATENT&TRADEMARK事件は、
休職期間満了時の企業対応の在り方に重要な指針を示した判例です。

【監修】

米玉利大樹
米玉利大樹代表弁護士
年間数百件の法律相談を受け、年間100件以上の法律問題を解決しています。
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