――CTW事件(東京地裁 令和7年6月30日判決)解説

労働者が「辞める」と言っていないにもかかわらず、
会社から一方的に「もう退職した扱いです」とされる――。

このような対応は、実務上しばしば見られますが、
法的には極めてリスクの高い行為です。

今回紹介する CTW事件(東京地裁 令和7年6月30日判決) は、
退職合意が成立していないにもかかわらず、
会社が元従業員を退職扱いとしたことが無効な解雇であり、
さらに不法行為にも当たると判断された事例です。


事案の概要|「退職合意」が争われたケース

元従業員は、CTWと雇用契約を締結し、同社で就労していました。
ところが、令和5年9月29日以降、

  • 元従業員は退職の意思表示をしていない
  • 退職に関する書類にも署名していない

にもかかわらず、

  • セキュリティカードの返却を求められ
  • 他の従業員に付き添われて退社させられ
  • その後の就労要請にも応答されなかった

結果として、退職したものとして扱われるに至りました。


裁判所の結論|退職合意は成立していない

会社は、
「同日に退職について合意していた」
と主張しました。

しかし裁判所は、

  • 元従業員は退職に際して条件を提示していた
  • その条件が受け入れられたか不明確
  • 書面への署名もされていない

ことなどから、
退職合意は成立していないと判断しました。

したがって、
元従業員は退職しておらず、
会社が退職扱いとした行為は**実質的な解雇(本件解雇)**であるとされました。


解雇の有効性|留保解約権の行使は否定

会社は、本件解雇について、
試用期間中の留保解約権の行使として有効であるとも主張しました。

しかし裁判所は、

  • 入社後1〜2週間で成果を求めるのは不相当
  • 能力不足を裏付ける客観的事実がない
  • 服装(半ズボン)についても注意指導がなかった
  • 業務内容上、会社に支障が生じていたとはいえない

として、
客観的合理性・社会的相当性を欠くと判断しました。

その結果、
本件解雇は無効とされました。


不法行為の成立|「退職扱い」は重大な違法行為

裁判所はさらに踏み込み、
本件解雇が不法行為にも該当すると判断しました。

  • 客観的合理的理由がない
  • 解雇規制を免れようとする取扱いとも評価できる
  • 元従業員の就労機会を奪っている

以上の点から、
元従業員には、

  • 就労できなかったことによる逸失利益
  • 弁護士費用相当額の損害

が生じたとして、
損害賠償請求も一部認められました。


実務への示唆|「退職扱い」は解雇以上に危険

本判決が示す重要なポイントは、

  • 退職合意は明確な意思表示と合意が必要
  • 曖昧なやり取りだけでは退職は成立しない
  • 「退職したことにする」対応は解雇と同視される
  • 不法行為として損害賠償責任を負う可能性がある

という点です。


まとめ|退職合意は慎重に、書面で

退職は、労働契約を終了させる重要な法律行為です。
企業側が一方的に「退職扱い」とすることは、
解雇よりも重い法的責任を問われる可能性があります。

CTW事件は、
退職合意の成立要件と、誤った実務対応のリスクを明確に示した判例といえるでしょう。

【監修】

米玉利大樹
米玉利大樹代表弁護士
年間数百件の法律相談を受け、年間100件以上の法律問題を解決しています。
「より良い解決」「迅速な解決」を大事にしており、個々の事案に適したスピーディな進行・解決を心がけています。
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