遺言書は、全文・日付・氏名を自分の手で書き、押印するという民法968条の要件を満たせば、ご自身で作成できます(自筆証書遺言)。ただし、方式の不備や曖昧な記載があると、せっかくの遺言が無効になったり、遺言のとおりに登記や預金の払戻しができなかったりします。本コラムでは、そのまま参考にできる文例、無効になる典型例、法務局の保管制度、公正証書遺言との比較まで、遺言書作成の要点を弊所がまとめて解説します。
自筆証書遺言の要件(民法968条)
自筆証書遺言が有効となるためには、次の要件をすべて満たす必要があります。一つでも欠けると、遺言全体が無効になるおそれがあります。
- 全文を自書する(パソコン・代筆は不可。後述の財産目録のみ例外)
- 日付を自書する(「令和7年4月1日」のように特定できる形で書く)
- 氏名を自書する
- 押印する(認印でも有効ですが、実印が望ましいといえます)
財産目録はパソコンで作成できる
相続法改正により、遺言書に添付する財産目録に限ってはパソコンでの作成や、登記事項証明書・通帳のコピーの添付が認められています(民法968条2項)。ただし、目録のすべてのページに署名と押印が必要です。財産が多い方には負担を大きく減らせる方法ですので、活用をおすすめします。
自筆証書遺言の文例(基本形)
法的に必要な要素を備えた基本形の文例です。実際には、財産の内容に合わせて書き換えてご利用ください。
遺言書
遺言者 山田太郎(昭和40年1月1日生)は、次のとおり遺言する。
第1条 遺言者は、遺言者の所有する次の不動産を、長男 山田一郎(昭和45年1月1日生)に相続させる。
所在 横浜市○○区○○町○丁目 地番 ○番○ 地目 宅地 地積 ○○.○○平方メートル
第2条 遺言者は、遺言者名義の次の預金を、長女 山田花子(昭和48年5月1日生)に相続させる。
○○銀行○○支店 普通預金 口座番号1234567
第3条 遺言者は、前各条に記載した財産を除く遺言者の有するその余の財産の一切を、妻 山田良子(昭和42年3月3日生)に相続させる。
第4条 遺言者は、この遺言の遺言執行者として、弁護士○○○○(事務所所在地)を指定する。
令和○年○月○日
横浜市○○区○○町○丁目○番地
遺言者 山田太郎 印
文例を使うときのポイント
- 不動産は登記事項証明書の記載どおりに特定する(「自宅の土地建物」のような書き方では登記できないおそれがあります)
- 預貯金は金融機関名・支店名・口座番号まで書いて特定する
- 相続人に渡す場合は「相続させる」、相続人以外に渡す場合は「遺贈する」と書き分ける
- 「その余の財産の一切」の条項を入れて、書き漏れた財産の行き先を決めておく
- 遺言執行者を指定しておくと、死後の名義変更や払戻しがスムーズになる
また、配偶者や子には遺留分(法律上保障された最低限の取り分)があります。特定の相続人に大きく偏った内容にすると、死後に遺留分をめぐる紛争が生じやすくなるため、配分のバランスにも配慮が必要です。
なお、法的効力はありませんが、末尾に「付言事項」として家族への感謝や、この配分にした理由を書き添えることもできます。遺言者の気持ちが伝わることで、相続人の納得感が高まり、遺留分をめぐる争いの予防につながる場合もあります。
遺言書が無効になる典型例
日付が特定できない
「令和7年春頃」「令和7年4月吉日」といった記載では作成日が特定できず、無効と判断されるおそれがあります。必ず「令和7年4月3日」のように年月日まで書いてください。
パソコンで全文を作成した・代筆させた
自筆証書遺言は、財産目録を除き全文の自書が必要です。本文をパソコンで作成したものや、家族に代筆させて本人が押印だけしたものは無効です。手が不自由で自書が難しい方は、後述の公正証書遺言をご検討ください。
夫婦で1通の遺言書を作成した
民法975条は、2人以上の者が同じ証書で遺言をすること(共同遺言)を禁止しています。夫婦連名の遺言書は無効ですので、内容が同じでも必ず1人1通ずつ作成してください。
財産の特定が不十分で実現できない
「○○銀行の預金を長男に相続させる」とだけ書かれ、支店名や口座番号の記載がないケースです。この場合、遺言が直ちに無効になるわけではありませんが、どの財産を指すのか特定できないと、金融機関での払戻しや不動産の名義変更ができず、遺言の内容を実現できないおそれがあります。実際に「長男に家をやる」といった書き方のために登記ができなかった例もあります。財産は登記事項証明書や通帳の記載どおりに正確に書いてください。
認知症などで意思能力を欠く状態で作成した
遺言作成時に、自分の財産や相続人を理解できる意思能力がなければ、遺言は無効と判断される可能性があります。認知症の診断後に作成された遺言は、死後に他の相続人から無効を主張されやすい典型例です。高齢の方が作成する場合は、医師の診断書を残す、公正証書遺言を利用するなど、有効性を裏付ける工夫が重要です。
訂正の方式を守っていない
書き損じの訂正にも、変更箇所を指示して署名し、変更箇所に押印するという厳格な方式が定められています(民法968条3項)。方式を守らない訂正は効力が認められないため、書き損じた場合は最初から書き直すのが安全です。
法務局の自筆証書遺言書保管制度
自筆証書遺言には、紛失・改ざん・発見されないといった保管上のリスクがあります。これを解消するのが、法務局に遺言書の原本を預けられる自筆証書遺言書保管制度です。
- 法務局が原本と画像データを保管し、紛失・改ざんを防げる
- 保管された遺言書は、家庭裁判所の検認手続きが不要になる
- 手数料は遺言書1通につき3,900円
- 預ける際に方式(自書・日付・署名押印など)の外形的なチェックを受けられる
検認とは、相続開始後に家庭裁判所で遺言書の状態を確認し、偽造・変造を防ぐための手続きです。通常の自筆証書遺言では検認を経なければならず、相続人にとって時間的な負担となりますが、保管制度を利用すればこれが不要になります。
注意点として、法務局のチェックはあくまで外形的なものであり、遺言の内容が法的に有効か・実現できるかまでは保証されません。内容面の確認は弁護士などの専門家に依頼する必要があります。
公正証書遺言との比較
| 項目 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 |
|---|---|---|
| 作成方法 | 本人が全文を自書 | 公証人が作成 |
| 費用 | ほぼ不要(保管制度は1通3,900円) | 財産額に応じた公証人手数料 |
| 証人 | 不要 | 2名必要(推定相続人・受遺者・未成年者は不可) |
| 無効になるリスク | 方式不備・意思能力を争われやすい | 低い |
| 検認 | 必要(保管制度利用なら不要) | 不要 |
| 向いている方 | 費用を抑えたい・内容が比較的単純 | 確実性を重視したい・財産や親族関係が複雑 |
相続人間の対立が予想される場合や、高齢・病気で意思能力を後から争われるおそれがある場合には、弊所では公正証書遺言をおすすめしています。費用はかかりますが、無効リスクの低さと執行のしやすさで大きなメリットがあります。
まとめ
遺言書は「書くこと」自体より、有効であること・そのとおりに実現できることが重要です。要件を満たした形式で財産を正確に特定し、保管方法まで決めて初めて、遺言は役割を果たします。とくに、財産が多岐にわたる方、相続人間に不仲がある方、特定の相続人に多く残したい方、再婚や内縁など家族関係が複雑な方は、文例をなぞるだけでは対応しきれないことが多いため、専門家の関与をおすすめします。弊所の相続分野の取り組みは相続問題のご案内ページをご覧ください。
遺言書の作成や書き直し、すでにお持ちの遺言書の有効性チェックをお考えの方は、お早めにご相談ください。
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