「雇用契約書」に署名したから雇用契約——とは限りません。東京地裁令和7年2月20日判決は、「雇用契約書」という表題の契約書が存在し「正社員」という文言が使われていても、実際の業務内容・労務提供の実態から準委任契約であると判断しました。企業が業務委託契約を結ぶ際に知っておくべき重要な判断基準を示しています。

事案の概要

歯科医院を運営する医療法人社団X(以下「X」)と歯科医師Y(以下「Y」)は、令和4年7月に「雇用契約書」を作成しました。しかし契約内容は「患者の治療を業務委託し、Yはこれを承諾する」という委託型でした。その後Xの理事長が死亡、Yが一時的に診療所開設者となりましたが、令和5年2月にYが退去。Xは、Yが患者から受領した診療代金の引渡しを求めて訴訟を提起しました。

YはXの請求に対し「雇用契約書に署名した従業員であり、労働債権に基づく相殺を主張する」として争いました。

裁判所の判断:「実態」が契約の法的性質を決める

裁判所は、「雇用契約書」という表題にかかわらず、以下の事実から準委任契約であると判断しました。

  • 勤務時間・勤務日数について実質的に格別の制約がなかった
  • 業務についてXからの指揮監督なく、Yの裁量で行うものとされていた

また、旧覚書に「正社員(期限の定めのない社員)」という文言が含まれていたにもかかわらず、裁判所は「文言にかかわらず準委任契約」と判断しました。

労働者性の判断基準(使用従属性)

裁判所が採用している労働者性の判断基準は、昭和60年の厚生労働省研究会が示した「使用従属性」の枠組みです。主な考慮要素は以下のとおりです。

  • ①仕事の諾否の自由:使用者の業務指示を断る自由があれば、従属関係が弱まる
  • ②業務内容・遂行方法への指揮命令:具体的な指揮命令を受けているかが最重要要素
  • ③拘束性:勤務時間・場所が指定・管理されているか
  • ④代替性:本人に代わって他者が労務提供できるか

企業実務への示唆

  • 「業務委託」でも実態が雇用なら労働者として扱われる(逆も然り):契約書の名称・文言に関係なく、指揮命令・時間拘束の実態で判断されます。
  • フリーランス・業務委託契約を結ぶ際の注意:業務の指示方法・勤務時間の管理を契約書に明記し、実態でも「委託」関係を維持することが重要です。
  • 「雇用契約書」を使った業務委託は危険:本件のように表題と実態が乖離すると、予期しない法的問題が生じます。フリーランス新法の施行後はさらに注意が必要です。

まとめ

本判決は「契約書の表題・形式より実態」という通説的見解を踏まえた判断であり、業務委託か雇用かが争われる場合の実務的指針となります。業務委託契約の設計・見直しを検討している企業、あるいは「業務委託のはずが雇用と主張された」という場合はお早めにご相談ください。

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