「上司のパワハラに耐えられず退職した」「精神的に追い詰められて会社を辞めるしかなかった」――このような状況で退職した場合、加害者個人と会社の両方に慰謝料・損害賠償を請求できる可能性があります。

パワハラとはどこからが該当するのか

労働施策総合推進法(パワハラ防止法)では、パワハラを「職場における優越的な関係を背景とした言動で、業務上必要な範囲を超え、労働者の就業環境を害するもの」と定義しています。具体的には以下の6類型に整理されています。

  • 身体的な攻撃:暴行・傷害
  • 精神的な攻撃:脅迫・侮辱・暴言
  • 人間関係からの切り離し:無視・隔離
  • 過大な要求:不可能な業務量・達成不能なノルマ
  • 過小な要求:能力とかけ離れた仕事しか与えない
  • 個の侵害:プライバシーへの過度な立ち入り

「上司の指導の範囲内では?」と思い込んで泣き寝入りするケースもありますが、継続的・執拗な言動や、業務とは無関係な人格否定は法的にパワハラと認定される可能性があります。

パワハラで退職した場合の法的根拠

①加害者への不法行為責任(民法709条)

パワハラ行為は、精神的・身体的苦痛を与える不法行為です。加害者個人に対して慰謝料・治療費・逸失利益(退職による収入減少分)を請求できます。

②会社への使用者責任(民法715条)

会社は従業員の不法行為について「使用者責任」を負います。また、パワハラ防止義務(労働施策総合推進法)を怠った場合は、会社の安全配慮義務違反(民法415条)としても請求できます。

慰謝料の相場

慰謝料は被害の程度・期間・退職の経緯によって異なりますが、裁判例では以下が目安となっています。

  • 軽度のパワハラ(言動による精神的苦痛):50〜100万円程度
  • 中程度(うつ病発症・長期の嫌がらせ):100〜300万円程度
  • 重度(自殺念慮・長期入院):300万円以上になるケースも

退職による逸失利益(給与分)・治療費・交通費なども請求対象です。

「自己都合退職」でも会社都合として扱えるケース

パワハラにより追い込まれて退職した場合、形式上は「自己都合退職」であっても、実態は会社側の問題による退職(「追い出し」退職)として扱われることがあります。この点は雇用保険の失業給付にも影響します。自己都合退職の場合は2〜3ヶ月の給付制限がありますが、「特定受給資格者」または「特定理由離職者」に該当すると認められれば給付制限なしで受給できます。ハローワークへの申告時にパワハラの事実を伝え、会社都合相当として認定を求めることが重要です。

証拠の集め方

  • パワハラ行為の録音・動画(スマートフォン可)
  • メール・チャット・SNSのスクリーンショット
  • 業務日誌・メモ(日付・内容・目撃者を記録)
  • 医療機関の診断書・カルテ(精神科・心療内科)
  • 同僚の証言(退職後でも協力を求めることは可能)

証拠は退職前に確保することが理想です。退職後は会社の資料にアクセスできなくなる場合があるため、在職中に可能な限り収集・保存しておきましょう。

請求手順と時効

  • 内容証明郵便による請求→任意交渉→労働審判または訴訟
  • 時効:不法行為を知った時から3年(民法724条)
  • 退職後も請求可能。退職から時間が経っている場合は早めに行動を

まとめ

パワハラによる退職は、我慢して辞めるだけで終わりにする必要はありません。慰謝料・逸失利益の請求、失業給付の会社都合への切り替えなど、法的に取れる手段があります。証拠の集め方や請求の進め方は弁護士に相談することで、最も有効な方針を立てることができます。

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米玉利大樹
米玉利大樹代表弁護士
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