「能力不足・協調性の欠如」を理由とする解雇は、日本の労働法上では有効性のハードルが高く、無効とされるケースも多いです。しかし今回紹介する東京地裁令和7年11月11日判決(Queen Bee Capital事件)では、会社側が解雇の有効性を立証することに成功し、元従業員の地位確認・未払残業代・慰謝料請求がすべて棄却されました。
事案の概要
Queen Bee Capital(以下「会社」)に正社員のシステムエンジニアとして雇用された元従業員が、会社による解雇は無効として、①地位確認、②未払割増賃金・通信費等の支払い、③解雇・パワハラを理由とする慰謝料を求めて提訴しました。裁判所はこれらをすべて棄却しました。
解雇が有効とされた理由
裁判所は、業務報告書に記載された以下の事実から「客観的合理的な理由がある」と認定しました。
- 業務指示への不服従:本件アプリのUIの開発に従事せず、会社から指示を受けていない非効率なeKYCシステムの開発に数か月を費やした
- 成果物の品質問題:作成したソースコードに多くのバグが発見され、修正に多くの時間を要する状態であった。内部調査の結果、UIは「使い物にならない」と判明
- 協調性の欠如:ITチームのリーダーFの指示に反発する態度で業務に当たり、チームが準備した開発環境に従わず独自に作業を行うなど、就業規則上の「協調性に欠き、業務の遂行に支障が生じている」に該当
これらの事情から裁判所は、解雇には客観的合理的な理由があり、社会通念上相当であるとして解雇を有効と判断しました。
残業代・パワハラ・通信費の各請求がすべて棄却された理由
- 時間外手当:業務報告書記載の時間が労働時間の証拠として採用されず。法定休日にも当たらないと判断
- パワハラ:会社代表者の発言がパワハラに当たる証拠なし。業務内容の変更・過大要求・孤立させたとの主張も証拠不十分
- 通信費:テレワーク就業規則に会社負担の定めなし
企業が能力不足・協調性欠如で解雇するために必要なこと
本件で会社が解雇の有効性を立証できた最大の理由は業務報告書という客観的な記録の存在でした。実務上、「能力不足・協調性欠如」を理由とする解雇を有効にするためには以下が必要です。
- 業務上の問題行動・成果物の問題を記録する:口頭注意だけでなく、メール・報告書・指導記録として残す
- 改善の機会を与えた事実を証明する:指導・面談・改善計画を経てもなお改善されなかったことの記録
- 就業規則に解雇事由を明記する:「協調性の欠如」「職務遂行能力の著しい不足」等を就業規則に明確に規定しておく
- 段階的な対応(注意→警告→解雇)を経る:いきなり解雇ではなく、改善指導の経緯が手続的妥当性を担保します
まとめ
本判決は、記録と手続きを適切に踏めば「能力不足・協調性欠如」による解雇が有効となることを示しました。一方で証拠が不十分な場合は解雇無効となるリスクが高く、従業員対応に悩む企業は早めに弁護士に相談することをお勧めします。解雇の妥当性確認や就業規則の整備についてはお気軽にご相談ください。
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